女子高生蓮宮玲子の学園怪異ミステリー②『踊り場の鏡』

☆白兎☆

第1話

「踊り場の鏡」

 これは、この学園のミステリーの一つだった。その鏡というのは、北校舎の二階から三階への階段の踊り場にあり、誰もがその存在を知っている。そして、怪異の噂も皆が知っているのだった。


蓮宮はすみやさん、居ますか?」

 と新聞部の部室へ、堰を切ったように駆け込む者がいた。

「ええ、居るわ。ここに。それで、私に何か御用かしら?」

 と蓮宮が答えて、駆け込んできた男子生徒の方へ向いた。

「君にお願いしたい事があるんだ」

 と切羽詰まったように言うと、新聞部の部員たちの眼が男子生徒に集まった。それを気にするかのように、

「あの~。ここではちょっと……」

 と男子生徒は突然、口ごもった。

「それなら、部屋を変えましょう」

 そう言って、蓮宮は男子生徒を連れて他の部屋へと移動した。


「あの~……。ここ、学園長室ですよ?」

 連れて来られた男子生徒は、おどおどしながら言った。学園長室には、もちろん、学園長が居て、窓際に置かれた学園長の椅子に座り、蓮宮と男子生徒へ視線を向けている。

「ええ、そうね。ところで、あなた、名前は?」

 蓮宮は戸惑う男子生徒にはお構いなしに質問した。

「えっと、三年三組の石田浩介です」

 と石田が答えた。

「それで、あなた、私にお願いしたい事って何かしら?」

 蓮宮が聞くと、

「え? ここで話すの?」

 と石田が聞いた。

「ええ、もちろんよ。そんなに慌てて私に助けを求めるだなんて、相当、大事おおごとなのでしょう? 例えば、昨日、捜索願が出された三年三組の月島ひかりさんの事とか?」

 蓮宮が確信を突くように言った。すると、石田は驚いて言う。

「蓮宮さん! 何で分かったんですか?」

 そんな石田に、

「それじゃあ、あなたの話を聞かせてもらいましょうか?」

 と蓮宮が言う。

 そして、石田は語り始めた。


 この学園のミステリーの一つ、「踊り場の鏡」。その内容とは、踊り場の鏡は霊界に繋がっているという噂。そして、その霊界へ行く方法があるという。そこで、僕とひかりはその方法を調べて試してみようと思ったんです。今までも、何度か試したみたんですが、何も起こらず、夕べもまた、違う方法で試してみたんです。それが成功して、ひかりは霊界へと入ってしまったんです。僕は慌てて、ひかりを引き戻そうとしたんですが、元の普通の鏡に戻ってしまって、それで、どうしたらいいか分からず……。


 と石田はそこまで話すと、声を震わせて涙を流した。

「なるほどね。興味本位で霊界の門を開いてしまったというわけね。愚かだわ」

 と蓮宮は言って、

「学園長、あなたも知っていたんですよね? 踊り場の鏡の事を」

 と学園長に尋ねた。すると、それまで黙って聞いていた学園長は深くため息をついて、

「ええ、知っていました。でも、まさか再びあの門が開かれるだなんて思わなかったわ」

 と答えた。そして、月島ひかり失踪について話した。


今朝、月島ひかりさんの親御様から、ひかりさんが夕べから返って来ない事を知らされました。お年頃の娘さんですから、何かあっては困ると警察署へ捜索願を出しました。親御様は夕べ、月島ひかりさんが出掛けた事を知らなかったようです。今、石田君から話しを聞いて、やっと話が繋がりました。けれど、霊界へ行ってしまったとなると、これは私たちではどうにもなりません。たとえ、警察でも介入出来ない事です。どうしたらいいのでしょう?


 そう言って、学園長は頭を抱えて、先ほどよりも更に深くため息をつく。


「専門家を呼びましょう。私にはあてがあります」

 と蓮宮は言って、

「学園長、あなたにもご協力をお願いします。それと」

 と一度言葉を切って、

「石田先輩、あなたももちろん手伝ってもらいますからね。夕べ、あなたとひかりさんが霊界の門を開けた方法を教えてちょうだい」

 と石田に向かって言った。


 石田の話によると、夕べ行った方法というのは、夜中の十二時ちょうどに、鏡の前に二人並んで手を繋ぎ、

「霊界の者たちよ、我ら生者に霊界への道を開き、生者の魂を導き給え」

 と二人で唱えた、というものだった。すると、踊り場の鏡に波紋が広がり、霊界への入り口が開いた。

 そして、向こう側から闇の様に黒く、霧のような輪郭の定かでない長い手が幾つも伸びてきて、月島ひかりの身体を引き込んでいった。石田は慌てて引き戻そうとしたが、身体が思う様に動かず、あっという間にひかりは連れて行かれ、その門は閉じてしまった。


「ああ~。その言葉の意味を、あなたたちは理解していなかったのね?」

 と蓮宮は言って、

「魂を導き給えって、よく考えなさい。言葉通りにひかりさんは魂を持って行かれたのよ」

 と呆れたように言葉を続けた。

「そんな……」

 石田はがっくりと項垂れて、膝を折った。

「でもまだ諦めないで。霊界へ連れて行かれたからといって、すぐに命が無くなるわけじゃないわ」

 蓮宮はそう言ってから、

「でも、あまり時間がない。だから今夜決行するわ。月島ひかり救出作戦を!」

 と言葉を続けた。

「え? 救出出来るの?」

 石田は希望を見出したように顔を上げて蓮宮を見ると、

「成功するかは分からないわ。でも、出来る事をやりましょう」

 蓮宮は言って、

「さっき、石田先輩が試したという方法で霊界の門を開きましょう。今日の夜の十二時に門を開くわ。その為にまずはあの人に依頼しないとね」

 と笑みを浮かべた。

「あの人って?」

 学園長が怪訝な表情で聞いた。

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