第2話 新しい生活

 首都に戻り待っていたのは俺への労いと新たなる指令。


「はぁ?俺があの子を育てるんですか?」


「彼女の力を考えたら抑え込めるのはお前しかない。実際に実証してるしな」


「いやいや、あくまで彼女が子供だったから体格差で抑え込めただけで、ともかく俺に子育てとか無理ですよ!」


「お前には家も養育費も通いの家政婦もつけてやる。幸い独身だし」


「余計なお世話です」


 25歳になる俺に10歳の女の子を任せるなんて、流石に恩義がある騎士団長の命令でも無理があり過ぎる。俺は必死に抵抗したのだが……。


「何よりあの子がお前じゃないと嫌だと言っている。自分が剣聖だった記憶はあるようで力を貸すならお前がいいそうだ」


 どうして懐かれた?なぜ?


 いつの間にか呼ばれた彼女リリーがオドオドと現れウサギの人形を使って話かけてくる。


「あのね僕はウサギのミック、この子はリリー。お兄さんが気に入りました大好き」


 ピコピコとウサギを操って腹話術で話しかけてくるリリー。


 臆病な子で会話はウサギを通してのみ。きっと人が怖いのか……と同情したのが運の尽き。彼女が18歳で成人する日まで俺は彼女を養育する事がほぼ強制で確定してしまった。


 あれから早いもので8年が経ち、俺は一応騎士団長として騎士団に勤務していた。


 前団長が病気の為に長期療養の間だけという条件で、あくまで仮団長として引き受けたつもりだが復帰する気配もなく騙されたのではと疑問に思う今日この頃。


 なんとか有能な副団長に助けられ今日も団長室で政務に励んでいると、ノックもほどほどにドカーンと扉が開かれた。


「きたよーミック!今日もリリーちゃんは頑張ったよー!」


 ウサギのぬいぐるみを抱きしめて元気に飛び込んできたヤンチャ娘は俺が育てた剣聖の生まれ変わりリリーだ。


 18歳になったリリーは見た目だけは可愛らしい少女に育ったと思う。


 ストレートの艶のある黒髪はサラサラと風に流れ、翡翠の瞳は人を魅了する輝きを放ち、形の整った鼻筋とプルプルと震える桃色の唇。


 相変わらずウサギを通してだが、物怖じせずに人と仲良くする社交性もあり無邪気に甘える愛嬌から周囲の評判は悪くない。


 10人男がいれば10人ともに可愛いと断言できる美少女だが、あくまで見た目だけの話である。なにせ中身があの剣聖なのだから。


「ねえミック、今日は一緒に帰ろ。大好き愛してる」


「とりあえず俺は団長でお前は新人なんだが」


「ミック団長好き!リリーもう照れちゃう!」


「いいから他の隊員と訓練でもしてこい」


 いつものリリーの浮かれ具合に、育て方を間違えたと頭を抱える俺。


「訓練終わったよー!もうみんな倒してきた、あはっ」


「おい待て!他の奴らは無事か!」


「褒めてよ!ちゃんと手加減して打撲か骨折程度で済ませてきたんだから!」


「こらっ!って……うっ、すまん俺が悪かった。竜が蟻と一緒に訓練するようなもんだった。本当にすまんみんな」


「うん、いいよ別に。じゃ帰りは一緒に何か食べに行こうよ。デートデート」


 過保護に育てたつもりはないのだが、最初に助けた時以来リリーの俺への懐きようは異常すぎる。執着というか、ともかくこのせいでリリーは本来なら確定していた剣聖の地位すら捨てて、俺の騎士団に新人隊員として入隊してきた。


 王の前でキッパリと「ミックと一緒じゃないなら絶対に協力しないもん」とウサギを通して爆弾発言したせいで一時は大騒ぎになったのだ。


 剣聖ヴィクトールが有名な理由は強さだけでなく、残酷さや血に狂った逸話の数々。敵味方関係なく畏怖を込めての狂乱の剣聖なのだが、間違いなくリリーはそれを引き継いでいる。かくして、いつ爆発するかわからないが手放すこともできない最強兵器剣聖。その見張り兼子守り役として俺は王直々に再び任命されたのだった。


「ねえねえ、どうして私にキスしてくれないの?昔は一杯してくれたじゃない」


「語弊がある!ホッペにキスは子供への愛情の証だ」


「もうリリーは子供じゃないから、ほら、ん――っ」


 目を瞑って召し上がれと唇を差し出す美顔に一瞬見惚れたが、ダメだ俺はあくまで育ての親なんだから。


 必死にリリーの顔面を鷲掴みにして近づけてくる顔を力づくで制止する俺。


「ダメだダメだ!何度も言ってるがお前は俺の娘か妹みたいなもんで家族愛はあっても男女の愛はダメだ」


「ダメって言う理由がわかんない!リリーはミックだけ!」


「それはウサギのミックだけにしろ」「嫌だどっちも!」


 引き取った最初の頃から、リリーは俺の言葉にだけには素直に従った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る