馬鹿な女
みかんの実
馬鹿な女
「私ね、彼氏できたの」
「は?」
大学のカフェテリアで向かい合う彼女の発言に、俺からは間抜けな声が漏れた。
「だからー、彼氏ができたのー」
「だってお前、別れたばっかりじゃん……」
「うん、でもー」
「1週間たってねぇじゃん」
「運命感じちゃったからぁ」
なんて語尾を伸ばす彼女は、あきらかに頭の悪い女のイメージがついて。金髪にちかい色の長い髪の毛をいじる手先には、派手なピンク色に染められたネイルが見え隠れしている。
まだ1月というのに外のテーブルを選んだのは、その方が周りに人が少ないという理由で、冷たい風が頬を容赦なく突き刺さした。
ふざけんなよ。お前、馬鹿だろ。
あれから5日しかたってねぇじゃん。本当に正真正銘の馬鹿だろ。
何回 男で痛い目にあって、何回 男で泣いたんだよ。
俺が何回、胸かしてやったと思ってるんだよ。
これだから、馬鹿な女は嫌いだ──。
「別れる予定は?」
「あるわけないじゃん」
「あっそ」
「やだー、妬いちゃう?」
「んな訳ねぇだろ」
「だよねー!」
そう言って大きな声で笑いだすものだから、まるで愚か者という烙印を押された気分になっていく。
「あれ、その紙袋なに?」
さっきまで笑い声をあげていた彼女の視線は、俺が座る椅子の下に向けられていて。そこには俺が持ってきたフラワーショップのピンクの紙袋が無造作に置かれていた。
「や、これは……」
慌てて隠そうとするものの、彼女に敵う筈なんてなくてあっさりと取られてしまう。
「チューリップじゃん!どうしたの?」
「さっき花屋のおばちゃんに無理矢理買わされたんだ」
赤いチューリップの小さな花束を片手にする彼女に、平然とそう言ってのけるけど。この苦し紛れな言い訳は嘘っぱちそのもので。
本当はこの馬鹿な女にやるために買ったものだけど。
「へぇー、可愛いね」
なんて目をパチパチと輝かせるこの馬鹿には、その事実は絶対に教えてやらない。
「じゃあ、……いる?」
「えっ!いーの?ありがとー!」
今日、俺が伝えようとしていた一世一代の言葉は
「長期戦しかねぇか…」
なんて独り言のように、小さく呟いた言葉と同じで、こいつにとってはたいしたこと無いのかもしれない。
「ん?何か言ったー?」
「別に……」
この馬鹿なおんなが彼氏に振られたらまた慰めてやろう。そして、また花束でも用意してやるかな。
こんな馬鹿な女の隣にいてやれるのは、きっと俺しかいないのだから。
小さな溜め息と共に吐き出された白い息は空中に消えていった。
fin
【チューリップ*赤】
花言葉 愛の告白 魅惑
馬鹿な女 みかんの実 @mikatin73
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