第4話





「相馬先輩!!お、終わりました!お願いします!」


「遅い」


確かに段取りは悪いかもしれないけど、他にもやる事あったし。それに、想像してたより多かったんだもん……。

せっかく頑張ったのに、ギロリと睨まれるからちょっと凹む。




「ったく。フグみたいに頬が膨らんでるぞ?」


「なっ、フグじゃありま……ぶっ」


先輩が両手で私の頬をサンドイッチする。




「やめて…くだしゃい」


顔を潰されたまま見上げれば、今度はちょっと口を尖らせた先輩が目に入る。



「お前は、俺と違って部長ってば優しいなぁ。とか思ってんだろ?」


「お、思ってないです!!いや、思ってますけど」


「……あいつは既婚者だ残念だな。それに、」



なにこれ、ズルい。先輩が部長相手に妬いてるのが伝わってきた。


ぐっと距離が近くなるから、眼鏡の奥の真っ黒な瞳から目が離せなくなって――――。











「お前は俺と付き合ってんだろ?」



一気に熱があがる。


慌てて部署内を見渡せば、誰もいなくて。部長は会議で、他の同僚は外回りから帰ってきていない事に気が付いた。




「……知りません」


「……」


「わ、私、先輩の気持ち聞いた事ないし」


「こころは可愛いよ」


「……!?」


「すっげ、可愛い」



大きな腕でふんわりと抱きしめられるから、押し返すことなんて出来ない。


自分勝手で優しくない先輩に対して、不満はいっぱいあるのに。

先輩の心臓の音も、男の人なのにちょっとだけ甘い匂いも、全てがズルい。







私より、ずっと背の高い先輩を見上げた。







「お前、まだ違う部署希望か?」


「……はい」


「そうか」


「馬も可愛いですけど」


「けど?」


「でも、いつかはファッション雑誌の編集部に行きたいです」


「ま、夢は大切だからな」


フッと笑うこの人に見とれてしまえば、




「んッ、ぐ……」


一瞬で唇を奪われる。


私の顔を貪るように、先輩の薄い口元が開かれて。何度も"ちゅッ"と音を立てて吸われる。



「はぁ、ゃ……ッ」


その度に身体の真ん中がギュッとなる。



「せっ、せんぱ……」


これ以上は駄目だって分かってる。


先輩の大きな手が私の後頭部に回されて、反対の手で腰をロックされるから、逃げることなんて出来ない。



「……こころ」


いつもの怒鳴り声とは考えられない位に、甘くて掠れた声のトーンが耳に響いた。





「会社じゃやらないぞ。こころの馬鹿でかい声聞かれたら困るからな」


唇が一端離れて、先輩の偉そうな言葉が発せられる。



「……ッ、」


苦しくて息が上がってるのは私だけみたい。



「家に帰ったら……アレだ。滅茶苦茶舐めてくれよ」



アレって……、先輩の?腹部に当たる固くなりはじめているソレに意識が持っていかれる。

でも、ちょっと…苦手なんだよな。なんて、黙り込む。



「こころ、顔に出てる」


「ご、ごめんなさい」


「俺もこころのこと滅茶苦茶舐めてやるから」



なんて耳元で囁かれるから、恥ずかしくて耳まで赤く熱をもっていくのが分かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る