第3話 先輩とあたし
「……でも、ほんと何しに来たんです?」
なんとなく答えが分かっていたって、聞かずにはいられない。
「監視だよ。俺にはお前を教育する義務がある」
「義務ですか」
「お前は入社3日後に社内で迷子となり、部署に戻れなくなり」
「もう覚えました」
「その3日後に、社長の大事な取引きのお茶の葉っぱを大量に……」
「はいはい、その節は大変申し訳ありませんでした!!」
相馬先輩は、あたしの教育係でもあり、一緒に入社した女の子が最初は羨む位のイケメンで。
なんだかんだで、いつも私の事を疑って(心配して)、見張って(見守ってくれて)いる。
「自分の仕事が終わってないのに、他の仕事をホイホイ引き受けるんじゃない」
「……はーい」
「ったく。誰にでもいい顔するな」
そう言って資料室へ足を向ける。
「もしかして、一緒に行ってくれるんですか?」
「当たり前だろ」
「もー先輩のストーカー」
「お前、怒鳴られたいのか?」
「ひぃッッ、、すみません」
口元を緩ませれば、先輩の鋭い目が一段と光った。
*
「やっぱりついて行って正解だったな」
「……うう、すみません」
1冊のファイルを両手に抱える私の後ろで、相馬先輩がどや顔を見せる。
資料を取ろうとして回りのファイルを全部ぶちまけるんて……。
はぁ、私は何をやってるのか。
先輩の言う通り、まだ1人じゃ資料運びさえまともに出来ないのか自信が無くなる。
「戻ったらさっさと仕事しろよ」
「は、はい」
なんだろう、こういう時の先輩は不思議な位にイキイキしてる。
*
「河上さんありがとね」
「あ、いえ」
部署に戻れば部長がニコニコと出迎えてくれる。ペコリと頭を下げると、すぐ後ろを歩いていた先輩が溜め息をつくから、その場の空気が一気によどみ出す。
「おー、相馬。あんまり、新入社員苛めんなよ!」
「部長こそ、コイツは自分の仕事も終わってないのに、雑用なんて頼まないで下さいよ」
「いやー、相馬はチェック厳しいからな。河上さんも大変だ。」
"はっはっはっ"なんて部長が笑い声をあげるから、
「指導です」
眼鏡をあげる先輩の口元が、ピクリと動いたのが分かった。
「お前のおかげで何人やめた事か」
そ、そんなに!?
辞めちゃった子もいるの?
なんて目を丸くして先輩に目を向ければ、
「それは関係ないですよ。退職するのは本人の意思なんだから」
確かにそうなんだけど。
先輩の言い通りなんだけど。
結果だけ聞くと、なんとなく本当なのかな……。
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