第3話 先輩とあたし





「……でも、ほんと何しに来たんです?」



なんとなく答えが分かっていたって、聞かずにはいられない。


「監視だよ。俺にはお前を教育する義務がある」


「義務ですか」


「お前は入社3日後に社内で迷子となり、部署に戻れなくなり」


「もう覚えました」


「その3日後に、社長の大事な取引きのお茶の葉っぱを大量に……」


「はいはい、その節は大変申し訳ありませんでした!!」


相馬先輩は、あたしの教育係でもあり、一緒に入社した女の子が最初は羨む位のイケメンで。


なんだかんだで、いつも私の事を疑って(心配して)、見張って(見守ってくれて)いる。




「自分の仕事が終わってないのに、他の仕事をホイホイ引き受けるんじゃない」


「……はーい」


「ったく。誰にでもいい顔するな」


そう言って資料室へ足を向ける。




「もしかして、一緒に行ってくれるんですか?」


「当たり前だろ」


「もー先輩のストーカー」


「お前、怒鳴られたいのか?」


「ひぃッッ、、すみません」


口元を緩ませれば、先輩の鋭い目が一段と光った。












「やっぱりついて行って正解だったな」


「……うう、すみません」


1冊のファイルを両手に抱える私の後ろで、相馬先輩がどや顔を見せる。



資料を取ろうとして回りのファイルを全部ぶちまけるんて……。

はぁ、私は何をやってるのか。


先輩の言う通り、まだ1人じゃ資料運びさえまともに出来ないのか自信が無くなる。





「戻ったらさっさと仕事しろよ」


「は、はい」


なんだろう、こういう時の先輩は不思議な位にイキイキしてる。






「河上さんありがとね」


「あ、いえ」


部署に戻れば部長がニコニコと出迎えてくれる。ペコリと頭を下げると、すぐ後ろを歩いていた先輩が溜め息をつくから、その場の空気が一気によどみ出す。




「おー、相馬。あんまり、新入社員苛めんなよ!」


「部長こそ、コイツは自分の仕事も終わってないのに、雑用なんて頼まないで下さいよ」


「いやー、相馬はチェック厳しいからな。河上さんも大変だ。」


"はっはっはっ"なんて部長が笑い声をあげるから、




「指導です」


眼鏡をあげる先輩の口元が、ピクリと動いたのが分かった。




「お前のおかげで何人やめた事か」



そ、そんなに!?

辞めちゃった子もいるの?

なんて目を丸くして先輩に目を向ければ、




「それは関係ないですよ。退職するのは本人の意思なんだから」



確かにそうなんだけど。

先輩の言い通りなんだけど。

結果だけ聞くと、なんとなく本当なのかな……。



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