第38話

   サトレアとの戦いは苦戦に陥っていた。


  フィルディンが魔術で氷魔法を展開するとサトレアは火魔法で応戦する。氷の柱が何本もサトレアを取り囲む。が、巨大な火の玉がサトレアの手のひらから現れて氷の柱は溶かされてしまう。じゅうっと音がして辺りに湯気が漂った。氷の柱が蒸発しているのだ。


「……ちっ。あいつ、火属性か」


  フィルディンは仕方なく水の初歩的な魔法でウォーターボールを繰り返した。けれどサトレアの放つ火魔法と衝突して拮抗しあう。するとジークがウォーターリバーという上級魔法を展開した。剣を鞘に収め、魔法に集中する。ウォーターリバーとは川の流れを意味する。ジークの両手から放たれた濁流がサトレア目掛けて放たれた。


「……くっ。水の上級魔法まで使えるとはね」


  火魔法で再び防ごうとしたが。濁流の方が勢いは上だった。あっという間にサトレアは呑み込まれた。首まで浸かってしまう。ジークの放つ濁流が消えるとぐったりとした様子のサトレアだけが残った。


「……今。我、太陽神に請い願わむ。かの者を浄化せしめん事を!!」


  ジークは祝詞を唱えると白夜剣と雷光剣の二振りを同時に鞘から抜く。ピタリと刀身と柄を合わせる。たちまち、二振りの剣は白と薄い青の光を放った。眩い光の中、一振りの剣にそれは変化する。ジークや他の面々が目を開けた時には青白い光を放つ美しい一振りの剣があった。


「……あれが伝説の白光剣(はっこうけん)。まさか、この時代で見られるとは」


  フィルディンが呟いた。自分の代でも成し得なかった二振りの剣の融合だ。ジークがそれを成し遂げるとはと驚いていた。


「サトレア。お前を浄化してあるべき世界に帰してやる」


「……い、嫌よ。あたくしは」


  次の言葉を聞かずにジークはサトレアの胸にゆっくりと白光剣で貫く。サトレアはピクリと動かなくなった。赤と白の光に姿を変えて彼女は消えた。


「さよならだな。サトレア」


  ジークが呟くと白光剣の光がおさまった。それを鞘に収める。ローズは慌てて駆け寄った。月玉で辺りの浄化を始める。ジークはそのまま、その場を動かずにいたのだった。


  サトレアとの戦いの後、ジークは無言だった。ローズが近寄って額に触れると高熱が出ているのがわかった。


「……ジーク。あんた、すごい熱じゃないの?!」


「……ローズ。大した事じゃないって」


「大した事よ。コンラッドさん、ジークが大変です!!」


  ローズが大声で言うとコンラッドが気づいてこちらに駆け寄った。


「……ローズ。ジークがどうかしたのか?!」


「すごい熱があって。おでこを触ってみてください」


  コンラッドは驚いて目を見開いた。仕方なくジークに近寄る。


「すまないが。ちょっと額を触るぞ」


  そっとコンラッドはジークの額に触れた。かなりの熱さでローズの言葉が本当だとわかった。


「……確かに高熱だな。クォーツ、ちょっとジークを診てやってくれ」


「……はい。ジーク君、ちょっとあっちに手頃な石があるから。そこで診察するよ」


  クォーツの指示にジークは素直に従った。手頃な座れそうな石の上にジークを座らせる。クォーツは額を触ったり目の下を引っ張ったりして診察を行う。しばらくして診断結果を告げた。


「……うーん。ジーク君、魔力切れを起こしてるね。強力な魔術を連発したからそのせいだろうなあ」


「そうなんですか。じゃあ、上級ポーションが必要になりますね」


「そうだね。上級ポーションを飲んで1日くらいゆっくり休んだら魔力は戻るよ。仕方ない。ローズさん、回復魔法でもヒーリングは上級魔法だけど。使ってくれるかな?」


「わかりました。ジークがまた戦えるんだったら使います」


「……ごめんね」


  クォーツが謝るが。ローズは首を横に降る。そうしてジークにヒーリングをかけた。かなり霊力を消費するが。今はしのごの言っていられない。無詠唱でヒーリングを展開する。白と銀の光が眩くジークを包んだ。しばらく経ってジークの顔色がだいぶ良くなる。ローズはふらりとしたが。無事、ヒーリングは成功したらしい。ジュリアナが慌てて上級ポーションを差し出す。ローズは受け取って飲む。回復の泉の水も合わせて飲んだら霊力は何とか戻った。驚くジークは目を見開いたが。ローズは良かったと胸を撫で下ろしたのだった。

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