第37話
クレイの明かりを頼りに地下迷宮潜入2日目を迎えた。
意外と広大な迷宮にローズは驚いていた。他の面々も迷宮の出口はどこなのかと思っている。フィルディンとコンラッドも口に出していた。
「……この迷宮は古代に魔王を封じておくために作られたと聞いている。まさか、こんな皇宮の地下にあったとはな」
「そうなんですか。私もこの目で見るまでは信じられませんでしたが」
「まあ、普通はそうだろうな。俺も自分の目で見るまでは半信半疑だったよ」
フィルディンが肩を竦める。コンラッドも苦笑した。ジークもそれを見て考え込んだ。
「……どうかしたの。ジーク」
「……いや。ちょっとな」
ローズが不思議に思って尋ねるが。ジークは曖昧に笑って答えを濁してしまう。ローズは余計に訳が分からない。
「ジーク。ちょっとなだけじゃ分からないわ。何があるのかはっきり言ってよ」
「……俺の考えであって事実ではないからはっきりとは言えないんだが。この迷宮の一番奥から嫌な気配がするんだ。もしかすると魔王がいるのではと思っている」
「そんな事分かるの?」
「分かる。剣がさっきからうるさく鳴っているしな。それに肌がピリピリする。これは尋常じゃない力を持った奴がいると感じるんだよな」
「そう。私も月玉の力をもっと使えるようにならないと。ジークに負けちゃっているわね」
ローズがふうとため息をつきながら言うとジークは苦笑した。
「……ローズは十分やっているよ。むしろ、頑張り過ぎだ」
「そうかな。私、もっと役に立ちたい。何だか、足手まといになっているだけのような気がする」
「そんな事はないって。ローズ。一体どうしたんだ?」
「……私。ジュリアナさんみたいに戦えないし。短剣も付け焼き刃だし。使えるといったら治癒魔法や後援部隊が使うようなのばかりだもの。ちょっと悔しくなってしまうのよ」
「……ローズ。お前は仮にも月の巫女だ。妖魔を浄化するのはお前にしかできない。結界の補強もだ。弱音を吐きたくなる気持ちはわかるが。まだ、魔王を倒せていない。悔しがるのはその後にだって出来るはずだぞ」
真面目な調子でジークは言い募る。ローズは確かにと思った。悔しがるのはいつだって出来る。
「ごめん。ジークの言う通りだね。今は魔王を倒さないとね」
「その意気だ」
ジークはそう言ってローズの肩をポンと叩いた。こうして奥を目指して再び歩き出すのだった。
半日は経っただろうか。迷宮のかなり奥まで来たようだ。フィルディンがふと立ち止まる。
「……皆。武器をいつでも出せるようにしとけよ」
「……フィルディン様?」
クォーツが訊くと同時にコツコツと靴音が聞こえた。クレイの明かりに照らされて現れたのは赤い髪に瞳の妖艶な美女だった。人の姿はしているが。纏う空気が人間ではない。黒のドレスに赤いハイヒールを履いている。手にはレイピアという突く用の剣を持っていた。
「……ああら。光の神子に月の巫女がやっとお出ましかしら。魔王様には会わせないわよ」
「お前。魔族だな」
「ふふ。不粋でしょうがないわねえ。あたくしは魔族の中でも高位のもの。人間ごときにやられないわよ」
魔族の美女はくすりと笑った。フィルディンが睨みつける。
「……あたくしは名をサトレア。魔王様の側近よ」
サトレアと名乗った女はいきなりレイピアをフィルディンに突きつけた。素早く後ろに飛びすさって避ける。サトレアはちっと舌打ちをした。
「ふん。光の神子はこれだから厄介なのよ。他の人間だったら簡単に消せるのに」
「簡単に消せると言うところが魔族だな。サトレア。お前がイライアを連れ去ったのはわかっているんだぞ」
「……そこまでわかっていたとはねえ。そうだよ。あたくしがあの邪魔な巫女をキルア公爵に攫わせた」
フィルディンはその言葉を聞いて静かに腰に佩いた剣を抜いた。切っ先はサトレアに向けている。
「……なるほど。だったら浄化してやるよ」
「弱い奴がほざいてんじゃあないよ!」
サトレアが物凄い速さでレイピアを繰り出す。フィルディンは剣でその斬撃をいなした。キインと高い音が響く。ジークも加勢した。雷光剣でサトレアのレイピアを狙い、雷撃を放った。が、サトレアは思いもよらぬ速さで避ける。雷撃は石床に落ちてドカンッと轟音が響いた。ローズも月玉を手に握りしめつつ、フィルディンとジークの戦いを見守ったのだった。
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