第35話

  ローズはジーク達と話し合い、地下迷宮に潜入する事を決めた。


  イライアは静養の必要があるので代わりにフィルディンが同行する。コンラッド、クォーツ、ケビン、ジュリアナも一緒だ。ローズの武術の腕も上がっていた。神官長から太陽神アスナ神の加護がある光のペンダントをもらった。ジークは月の雫という妙薬をもらっていた。月の雫は月玉の原材料の月涙石(げつるいせき)と聖水、精製された塩で作られた薬の名前だ。どんなひどい病気でもたちまち治してしまうという。


「……ジーク。私、光のペンダントをもらったんだけど。これがあれば、対の神子がいなくても気の均衡が崩れることはないんだって」


「そうか。良かったな」


  ジークはそう言ってローズの頭を撫でた。今、地下迷宮に行くにあたって荷物の準備をしているところだった。神官長からもらったペンダントと薬は大事に持っておこうと2人は決めている。そうして準備は着々と進んだのだった。


  あれから、10日が経ち、ローズ達は地下迷宮に繋がるという皇宮のとある部屋にいた。皇帝陛下からは許可をいただいている。ジークとローズが部屋の壁の窪んだ部分に手を当てた。ごおおと大きな音がして壁が動いた。壁は横向きに動く。そうして見えてきたのは螺旋状に続く階段だった。先頭にフィルディンが行き、コンラッドが続いた。さらにケビン達が後を付いて行った。ローズは一番最後だ。フィルディンが魔法の炎で照らし、ケビンも同様にする。そうする事でだいぶ明るくなった。


「……ふむ。だいぶ、妖魔の気配がするな」


「そうですか。確かに闇の気が濃いですね」


  フィルディンが言えば、クォーツも頷いた。ケビンも表情が険しい。ジークも剣の柄に手をかけた。ローズも肌が泡立つ感覚がある。月玉のある胸元の辺りが熱い。月玉も反応しているようだ。


「ジーク。ここに魔王がいると思う。気をつけて」


「わかった。ローズも気をつけろよ」


  ローズはこくりと頷いた。ジークの纏う霊力が強くなったように感じた。慎重にフィルディンが階段を降り始めた。他の面々も続く。カツンカツンと足音と呼吸の音だけがしばらく響いていたのだった。


  ぐるると獣の唸る声がした。フィルディンとコンラッドがいち早く気づいた。ケビンとクォーツも杖を構える。ジュリアナも剣を鞘から静かに抜いた。辺りにピリリとした殺気が満ちる。ジークも白夜剣を鞘から抜く。


「……ローズ。ジュリアナさんの後ろにいろ。でないとお前を守れないんでな」


「……うん。わかった」


  ローズはジュリアナの後ろに移動した。フィルディンの炎で照らし出されたのは大きな狼の姿をした妖魔だ。一頭だけでなく八頭はいる。それの中の一頭が涎(よだれ)を垂らしながらフィルディンに飛びかかってきた。フィルディンは細身のナイフを足首にあった鞘から抜くと素早く妖魔に斬りつけた。妖魔の前足に切り傷ができたが。浅いもので大したダメージは与えられなかった。フィルディンは舌打ちをする。コンラッドも飛びかかってきたもう一頭に長剣で応戦した。が、鋭い爪で攻撃を防がれてしまい、しまいには避けられた。コンラッドは下手に敵の懐に飛び込むのは危険だと咄嗟に判断する。フィルディンに目配せした。彼もわかったようで頷いた。ジュリアナとジークも背中合わせになって一頭ずつ相手取っている。さすがにジュリアナは一頭に大ダメージを与えており倒していた。ジークも白夜剣で閃光を放ち、妖魔の目を眩ませていた。そうした上で一頭を仕留めている。ケビンとクォーツも魔法で後援に撤していた。ローズは月玉で倒した妖魔を頑張って浄化した。気がつくと残り二頭になっていたが。


「ジーク。この二頭は気をつけて。他のよりも強いわ!」


「わかった。ローズ、身体強化を頼む!」


  ローズは慌てて身体強化の術を付与した。ジュリアナにもだ。2人は二頭の残った妖魔に斬りかかる。フィルディンとコンラッドも加勢した。ぎいんと剣が鳴った。妖魔の爪と剣がかち合ったのだ。フィルディンは火魔法で妖魔の目の辺りを狙う。


『グギャア!!』


  断末魔の悲鳴が響いた。じゅうと嫌な音がして妖魔の片目が焼かれていた。フィルディンは隙を狙って妖魔の眉間にナイフを突き立てた。しゅうと妖魔は白と金の光に包まれて消滅する。


「……これで全部倒したな」


  フィルディンが言うとコンラッド達は各々の武器を仕舞った。ローズも月玉をしまうとほうと息をついた。ジークが心配そうに彼女を見やっていたのだった。

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