第34話
イライアが無事に見つかりローズとジークは一安心だった。
フィルディンとコンラッドも同じく喜んでいた。イライア様はジュリアナやクォーツ、ケビンにもお礼を言っていたが。後でイライアはローズに話があると言ってきた。ちなみに皆で中くらいの宿屋で泊まっていたのだが。イライア用の部屋で話す事になった。
「……あの。イライア様。お話とはなんでしょうか?」
「ああ。そうかしこまらないで。あたし、堅苦しいのは嫌なのよ」
「はあ。じゃあ、イライアさんでいいですか?」
「いいわ。あたしもローズちゃんって呼ばせてもらうわね」
「……わかりました」
ローズが頷くとイライアは真顔になった。自然と背筋が伸びる。
「……それでね。ローズちゃんに話したい事っていうのは。魔王とナスカ皇国の結界の事についてよ」
「はあ。そういえば、神官長様が言っていたような気がします」
「うん。あの人であれば、言ってくれているとは思うけど。具体的に言うとね。魔王は気脈の流れ--要はその土地にある魔力が凝り固まった存在なの。妖魔達もそうなのよ。で何故、巫女が存在するかわかるかな?」
「妖魔を浄化するためでしょうか?」
「それも合ってはいるわ。でも巫女達が存在するのは神々が必要だと思ったから。このナスカ皇国はかつては妖魔達が跋扈する土地で人が住めるような所ではなかった。その妖魔達を元の異界に帰したりするには媒介が必要。巫女はその媒介として生み出された。あたしやローズちゃんもその媒介する存在として選ばれたのよ」
初めて聞く話にローズは驚いた。まさか、妖魔を浄化する事にそんな意味があったとは。イライアはでは何故、狙われたのか。それが気になってローズは訊いた。
「……あの。巫女が存在する意味はわかりました。けどなら何故、イライアさんは連れ去られてしまったんですか?」
「……あたしを狙ったのは魔王を崇拝する連中よ。はっきり言えば、貴族でも高位の奴らね。その筆頭だったのがキルア公爵。あいつは昔から魔王を復活させ、巫女達は排除すべきだと皇帝陛下に訴え続けていたわ。けど陛下はその訴えを退けた。それを逆恨みしてキルア公爵はあたしを連れ去ったのよ」
「そうだったんですね」
「公爵もバカよね。あたしを連れ去って巫女を排除しようとしたってフィルディンがいるのに。対のあたしがいなくなったらフィルディンは魔力の均衡を崩して暴走してしまうわ。そんな事になったら魔王を復活させるどころじゃなくなるのに」
「……なるほど。確かに白雷の神子だけだと魔力の均衡を保つのはかなり難しいですね」
ローズが真剣な表情で頷くとイライアはほうと息をついた。
「そうよ。キルア公爵はわかっていないのよ。月の巫女と白雷の神子が揃っていてこそ初めて力が発揮される。片方だけではなく両方を連れ去らないと意味がないわ」
「……それは言えてますね」
「うん。キルア公爵達は魔王を復活させるためにあたしを生贄にまで仕立てあげようとしたんだから。ちゃんちゃらおかしいわね」
生贄という言葉を聞いてローズは目を見開いた。まさか、イライアがそんな目的で連れ去られていたとは。フィルディンとコンラッドがいち早く彼女の居場所に気づいていて良かったとローズは胸中で思った。
「……イライアさん。キルア公爵はその後どうなったんですか?」
「騎士団に捕えられて地下牢へ連れて行かれたわ。他の連中もね。いずれ、お沙汰が来るでしょうよ」
「そうですか。じゃあ、これでイライアさんの件は片付いたんですね」
「……安心するのはまだ早いわよ。あなたとジーク君には一番大事な役割が残っているのに」
「大事な役割ですか?」
イライアはすっと居住まいを正した。ローズもつられてごくりと唾を飲み込んだ。
「……魔王を退治して浄化する事とナスカ皇国の結界の修復に決まっているじゃない。魔王はこの皇宮の地下迷宮にいるわ。ローズちゃん。あたしの代わりに魔王を倒して異界へ帰してやってほしいの。結界の修復は魔王がいなくならないとできないしね」
「……そうでしたね。わかりました」
「よろしく頼むわよ」
イライアに真っ直ぐに見据えられてローズは頷いた。ぐっと強く握手したのだった。
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