第30話
ジュリアナとローズの稽古は翌日から始まった。
転移魔法と空間魔法を使ってジュリアナは細身の双剣を取り出す。それは青い房飾りがついた女性用のものだ。それをローズに手渡した。
「……鞘から抜いて見てみるといい」
「分かりました」
ローズが頷いて鞘から抜いてみる。初心者の彼女でも軽い力で抜けた。現れたのは美しい銀色に輝く刀身だ。二つとも抜くと刀身の上側には波型の模様がある。形も斜めにそっていて独特なものでローズは驚く。
「……これは」
「この剣は東方の島国と大陸の国の技術を組み合わせた珍しい一品でな。双剣でありながら刀身はカタナだ。それでいて重くはなく女性でも十分に扱える。これは切れ味抜群だ。ローズさんにはぴったりだと思う」
はあと言うとジュリアナはにっと笑った。
「じゃあ。早速、体術から始めようか」
仕方なく双剣を鞘に収めてローズは頷いた。こうしてジュリアナによる稽古が始まったのだった。
ローズがジュリアナと稽古にいそしむ中、コンラッドやクォーツ、ケビンはイライアの捜索のために情報収集をしていた。ジークはローズが怪我をしないように近くで見張っていたが。
「……イライア様の神力を探してはみたが。ごく僅かに月涙石が反応するだけだ」
クォーツが言うとケビンもふうと息をつく。
「ああ。俺も精霊に頼んで探らせたり自分で気配察知の術を使ったりしてみたが。なかなか見つからないな」
「……そうか。クォーツとケビン二人掛かりで探してもめぼしい情報は得られなかったか。だとするとナスカ全体に広げた方が良さそうだな」
「全体を探していたら数ヶ月どころか。一年はかかるぞ」
コンラッドが言えば、ケビンが反論する。クォーツはさてどうしたものやらと考え込んだ。こういう事なら先代の白雷の神子にも同行を頼むのだった。そうコンラッドは心中でため息をついた。白雷の神子--フィルディンはイライアの対に当たる男性だ。彼であれば、イライアの持つ神力と繋がりがあるから居場所がすぐに分かったはずである。フィルディンは今、単独でイライアを探しているらしい。皇宮にいた時に部下が教えてくれた。
「……この際だ。対のフィルディン様に連絡を取ってみるか」
「分かった。僕がフィルディン様に伝令の鷹を飛ばすよ。鷹のイオだったら今日飛ばせば、二日以内には帰ってくるはずだ」
「そうだな。イオはフィルディン様の作った使い魔だしな。あいつならすぐに見つけて届けてくれる」
ケビンとクォーツが言うとコンラッドはその手があったと思う。二人にはすぐに連絡を取るように指示を出した。赤と黒が混じり合う美しい鷹が空から舞い降りた。クォーツが指笛で呼んだからだ。ケビンは手早く伝令用の手紙を書いて細く折りたたむ。鷹、イオの脚にそれを括りつけた。
「いいかい。君の生みの親のフィルディン様に手紙を届けておくれ。見つけ次第、フィルディン様に手紙を渡すんだ。この手紙は読んだら燃やすようにも伝えておくれよ」
クォーツが言うとイオはピーと高い声で鳴いた。それはクォーツには分かったらしく頷いた。
「……さあ。イオ。行ってらっしゃい!」
クォーツが掛け声をかけるとイオは空高く飛び上がった。そのまま、凄い速さでこの場を離れていく。三人はそれを見送った。ジークはそれを見て成る程と頷いたのだった。
その後、三人がジュリアナとローズの近くに戻ると体術の稽古の最中だった。ローズは必死にジュリアナの動きを真似している。
「……ローズ。左手はもっと上げるんだ。それにそんなへっぴり腰でどうする!」
「……はい。すみません」
ローズが謝ってもジュリアナは厳しい。もっと背筋を伸ばせとか、げきが飛ぶ。ローズは泣きそうな顔で言われた通りにする。コンラッドはローズがしているのを見て昔を思い出した。自分も父に厳しく剣術を叩き込まれた。それと同じような光景にコンラッドは目を細めた。ローズに頑張れとこっそり声援を送る。空を見上げて感傷的になった気持ちを切り替えようとしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます