第29話
ジークとローズが抱き合う中、コンラッド達4人はファイアウルフに手こずっていた。
何と言ってもファイアウルフは一体だけではない。五体程いる。コンラッドはケビンと背中合わせで戦う。
「……ケビン。後何体いる?」
「五体だな。三体はクォーツと倒したが」
「そうか。仕方ない」
コンラッドはため息をつくと抱き合っているジークとローズに大声でどやした。
「……おいっ。ジーク、いちゃいちゃしていないでこっちに来い!!」
そう言うとさすがに聞こえたのかジークがこちらを向いた。ローズに何事かを囁くと走ってこちらに来る。
「……コンラッドさん。手こずっているようだな!!」
「お前、こんな時に何をしている!皆が戦っている中でいちゃつく奴がどこにいるんだ?!」
「すみません。ローズが怖がっているようだったので」
「まあいい。ジーク、氷の術は使えるか?」
「使えますよ。ケビンさん程ではありませんが」
コンラッドはジークに目線を向けた。
「じゃあ、好都合だ。あのファイアウルフに向けて氷の術を使ってみろ」
「わかりました」
ジークは仕方ないと思いながら氷の魔法の中級の術の呪文を唱えた。
「……かの者を凍りつかせよ。スノウコールド!」
真っ白な雪と氷の花が舞い散りファイアウルフに放たれた。雪と氷の花はウルフを一気に凍りつかせる。パキンと音が鳴りファイアウルフは氷漬けになった。コンラッドが剣でファイアウルフの首を落とす。冷凍状態のファイアウルフは血も流れない。
「ローズ。ちょっとこちらに来てくれ!!」
コンラッドは大声でローズを呼んだ。すぐに気がついてローズがこちらにやってくる。
「……ローズ。このファイアウルフを月玉の力で浄化してくれ」
「……わかりました。やります」
ローズは上がった息を整えるために深呼吸をした。そして胸元から月玉を取り出した。
「月神ルーシア神よ。今、かの者を浄化せしめむ。我は請い願ふ」
そう言うと月玉から美しい金と銀、白の燐光が放たれた。ファイアウルフの体を燐光は包み込む。すうと消えていく。後には何も残らない。
「……よくやった。後4体はいるからそのつもりでいてくれ!」
コンラッドはそう言うとまた剣を構えた。ジークも続く。戦闘はその後も続いたのだった。
4体のファイアウルフを倒し、浄化をローズが行った。妖魔との戦闘は無事に終わったが。ジュリアナとコンラッドは腕に怪我を負っていた。2人とも軽傷だが。ローズは治癒魔法で治す。
「……ごめんね。ローズさん」
「気にしないでください。これくらいは今後も必要でしょうから」
「まあ、そうだけどね」
ジュリアナは苦笑する。コンラッドにも治癒魔法を施した。たちまち、2人の傷は治った。
「……ローズ。もう大丈夫か?」
「うん。心配かけてごめん」
「まあ、お前がこのところずっと悩んでいたのは知っていた。ジュリアナさんに言いたい事があるんだろう?」
「……よくわかったね」
「そりゃ、ジュリアナさんを見てはため息をついていたからな。もしやとは思ったんだ」
ジークに言われてローズは少し考える。そして彼から離れるとジュリアナに近づく。
「ジュリアナさん。ちょっといいですか?」
「いいよ。どうしたの?」
「……あたし、足手纏いになるのは嫌で。もしよければ、剣術をあたしに教えてください。お願いします」
「……剣術をローズさんがね。けど武術は1、2カ月で身につくものじゃないよ。それにローズさんの年齢では遅いくらいだし」
「それでも基礎だけでもいいから教えてください。何もできないよりはいいと思うんです」
ローズの真剣な様子にジュリアナは目を見開く。しばらく考える素振りを見せたジュリアナだったが。ふうとため息をついた。
「……わかった。仕方ないね。ローズさんにコンラッド団長と一緒に剣術を教えるよ。その代わり、投げ出すようだったら皇宮に帰ってもらうよ。いいね?」
「はい。ありがとうございます!」
「じゃあ、明日から剣術の鍛錬を始めよう。とりあえず、ローズさんが使いやすいように私の剣を譲るよ」
「……いいんですか?」
「いいよ。ローズさんの体格と腕力を考えたら細身の双剣がいいね。後、弓矢も用意しておく。女性であれば、長剣は扱いにくいから」
ジュリアナはそう言うとローズに手を差し出した。おずおずとローズが手を出すとジュリアナはぎゅっと握ってきた。握手をしたのだ。その光景をジークはほっとした様子で見ていたのだった。
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