第28話

  ローズ達が旅立ってから1週間が過ぎた。


  旅は順調そうに見えたが。途中でイライア様失踪の手がかりを探したり妖魔と戦ったりする時もある。その度にローズは後援として戦う男性陣を手伝ったりした。

  ジュリアナも前衛で戦っていた。ジークもだ。ローズは守られてばかりの自分が不甲斐ないと思うようになっている。もどかしくてジュリアナに剣の稽古をつけてくれるように頼もうかと悩んでいた。黙って考え込む時間が増えるようになり口数も少なくなった。皆が一様に心配をしていたが。それにはローズは気づかないままだった--。


「……ローズさん。ちょっと浮かない顔をしているな」


  そう言ったのはケビンだ。クォーツもうんうんと頷いた。


「そうなんだよね。ここ1週間は考え込む事が増えてるようだし」


「そんな事ないですよ。ちょっと自分が頼りないなと思っていて」


  曖昧に笑って誤魔化そうとする。けどケビンとクォーツは顔を見合わせた。コンラッドやジュリアナ、ジークもちょっと離れた所で見守っていた。


「……ローズさん。頼りないって。そんな事はないよ。僕らは新しい月の巫女が現れてほっとすらしているのに」


「そうなんですか?」


「ああ。クォーツの言うとおりだ。新しい月の巫女の出現に喜びこそすれ、残念に思うことはないさ」


  ケビンは励ますように言う。その表情は優しげな笑みで普段の彼からは想像できない。クォーツもそうだよと同調する。


「そうだよ。何だったら僕とケビンに話してみな。何を悩んでいるのか」


「……ありがとうございます。その。あたし、武術はからっきしダメで。短剣をちょっと扱えるくらいでジュリアナさんや他の皆さんみたいに強くないし。月玉もうまく扱えていないと思うんです。何もできなくて。妖魔に1人で立ち向かう事もできない。こんな弱い巫女じゃ足手纏いにしかならないですよね」


「……なるほど。ローズさんは自分が足手纏いになっているんじゃないかと思っているんだね。その事でずっと悩んでいたのか」


  クォーツがふむと考え込む。ケビンもちょっと意外そうにしている。


「確かに妖魔と戦えないとなったら困るよな。じゃあ、ジュリアナとコンラッドに稽古をつけてもらうか?」


「え。いいんですか?」


「それについてはあの2人に聞いてみな。後ちょっと良からぬ気配がしている。ローズさん、後ろに下がっててくれないか」


「……わかりました」


「……くっ。ファイアウルフとゴブレットじゃないのか。ちょっと手強い敵だね」


  ぐるると獣--ファイアウルフの唸る声が聞こえた。ローズは走ってジークの元に向かう。ジークが何を思ったかローズの腕を引き、自分の後ろに庇った。


「……ローズ。ゴブレットの相手は俺に任せておけ。ジュリアナさん、行こう!」


「ああ。ローズさんは危ないからこの場から動くなよ!」


  ジークとジュリアナは各々の剣を鞘から抜くと構えた。ゴブレットがゆっくりと歩いてこちらにやってくる。大きくて森の木々をめきめきと倒しながらジークとジュリアナを睨みつけた。岩で出来た体はゴツゴツとしていていかにも固そうだ。黄色に光る目が妖魔である事を表していた。


「……はぁっ!!」


  ジークが高く跳躍してゴブレットの頭を狙って斬りつけた。がきいんと金属と岩石がぶつかる音が辺りに響く。不思議な事にジークの使う白雷剣は折れずにいる。そして白雷剣が駄目だとわかると一度、鞘にしまう。白夜剣を抜くとジークは地面に着地した。目を瞑り短く祝詞を唱えた。


「……我を守りしアスナロ神よ。今、その神力を請い願ふ!!」


  すると金と銀の光の粒子が舞い飛びジークの体を包んだ。彼は目を開くともう一度跳躍してゴブレットに斬りかかる。眩い閃光が迸る。


『ぎゃああ!』


  断末魔の叫びをあげてゴブレットは閃光に包まれてもがき苦しんだ。ずうんと大きな音を立てて倒れる。ファイアウルフもコンラッド、ジュリアナやケビン、クォーツの4人で応戦していた。ゴブレットはすうと燐光を放ちながら消滅した。地面に着地するとジークは白夜剣を鞘に収めた。ふうと息をつく。ローズは駆け寄るとジークに抱きついた。いきなりの事に彼は驚いた。ローズはかたかたと震えながらぽたぽたと涙を流す。ジークは胸で泣く少女をそっと抱きしめる。しばらくそのままでいたのだった。

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