第6話 心の性器に従え
「やぁ霧野、来てくれてありがとう。ところで」
雪見の話を聞いた次の日、1限が始まる前に霧野を男子用教室に呼び出したのだが……
「なんでお前らもいんの?」
霧野だけじゃなく横山と金山も一緒に入ってきた。
邪魔者の存在に、はぁ……とため息を吐くと金山がバッと紙切れをこちらに突き出してくる。それは霧野をお誘いする内容が書かれた手紙だった。
「当たり前だろ!こんなこと書かれてあって薫を一人で送り出せるか!」
そこには、「お前に関する秘密を握っている。登校し次第男子用教室に来い」と書かれていた。
うん、一語一句間違ったことは言っていない。雪見の想いは霧野に関する秘密といって差し違いない。
「そもそも手紙じゃなくて口頭で呼び出せば良かっただろ……」
横山は呆れ顔で呟くもこちらにも事情があるのだ。だって……
「噂されたら恥ずかしいし……」
そう、俺が入学してすぐの頃……
男子用教室にエロ本が隠されていたりしないかと一人探検したことがあった。一年と二年の教室は空振り。一縷の望みに賭けて三年の教室に忍び込んだ時、俺は見てしまったのだ。
「ああ、良いぞ……でも、もっとゆっくりしてくれ……」
「せん、ぱい……あぁっ……!」
椅子を並べて腰掛けた男子二人が、お互いのソーセージを握りながらキスする姿を。
教室に響く男共の艶めかしい声。見つめ合いながらねっとりと交わる唇。
込み上げてくる朝食と胃液に俺は理解した。数多の癖を持つ俺だが、男色の癖も持ち合わせていない。何なら怖くておしっこちびりそうになった。もしかしたら少しちびってたかもしれない。
どうやらこの世界の男子も弱いものの精欲はあるらしい。また、女性に対する恐怖心からか元の世界よりも男色に目覚める男が多いようだ。
後日、都に男子用教室が男色目的で利用されることがあると聞かされることになる。
……そんなこともあって、女子たちの前で分かるように霧野を誘いたくなかったのだが。
「いや、別にどんな噂をされても構わねぇだろ。自分らしく胸張ってれば良いだけだ」
……あらヤダ、漢らしい。
「そもそもお前が女好きなのは周知の事実なのだからそんな噂が立つ余地もない」
うるせぇ、黙ってろ。
「そ、それで、ボクの秘密を握ってるって多分嘘だよね……?わざわざ人のいない所に呼び出してどうしたの?」
話が横に逸れまくっていることを霧野が軌道修正してくれる。助かった。
「霧野に聞きたいことがあってさ」
話を切り出してみたのはいいものの、まずは何を探ろう。そもそも雪見の想いを俺から伝えるのは違うし……
そうだ。まず一番大事なことを確認しよう。
「お前ってソーセージ付いてる?」
殴られた。思いっきり。
「いや、セクハラじゃなくてさ。女子に興味あるのかって話がしたかったんよ」
「だったら最初からそう言え」
頭に大きなコブを作りながら弁解すると、霧野は悩んだような表情を浮かべる。
「どう、なんだろう……あんまり考えたことないかも」
正直想像していた回答だ。続けて質問する。
「女子って怖いか?」
「どちらかと言えば……怖いかも」
「じゃあ、やっぱり雪見たちも怖かったのか?」
こっちが本題だ。もし俺のせいでそう言った感情を持たせてしまっていたら、いよいよ胸が罪悪感で潰れてしまう。
「最初は怖かったよ?急に入って来られて……」
でも、と話を続ける。
「彼女たちも宮坂くんが話を通してると思ってたみたいで、凄い謝られたんだ。怖がるボクに気を遣ってくれて……全然襲ってくる気配もなくて、それどころか楽しく遊べたから……うん、怖くないかな」
雪見は昨日、怖がられてしまったと絶望していたがそこまで悪感情は抱かれてなさそうだ。彼女にとって最初の表情が頭に焼き付いてその印象が拭えないのかもしれない。この感じならまだ希望はありそうだ。
「そうかそうか。実は一昨日、俺と雪見たちで行く予定だったんだけど急用が出来ちゃってさ。彼女たちだけでもって送り出したんだけどそのことを伝え忘れちゃってて」
まあ嘘なんだが。
「だからお詫びとして今度の土曜、同じメンバーで遊びに行かないか?今度は絶対俺も行くから。」
俺の提案に対し数秒の沈黙。その後霧野がゆっくりと頷いた。
「うん、そうだね。あの時もなんだかんだ言って楽しかったし」
「雪見たちは信用出来るし問題ないだろう。ただ、目の前の奴が信用ならないが」
どうやら同意を得られたようだ。ホッと一息つく。
もう1限開始までギリギリだ。さっさとクラスに戻ろう。
霧野と横山の後ろをついて歩くと隣に来た金山に俺にだけ聞かせるように小さな声で呟く。
「……秘密って雪見のことか?」
思わず視線を向ける。目の前の二人には聞こえていないようだ。
「あの子、カラオケの時に凄え意識してたからな。……安心しろ、二人は気付いてない。それに邪魔する気もねぇから」
意外だった。そういうことには金山が一番鈍いんだと思っていた。
「意外と聡いんだな」
「俺が聡いっていうより……」
あいつらが鈍すぎる。と彼は苦笑を浮かべた。
「……っていうことで、土曜に約束取り付けたぞ」
昼休み、食堂で都に状況を伝える。
彼女はパスタを巻きながら意外そうに口を開く。
「へぇ……彼女たちの話を聞く限り絶望的だと思ったけど、そんなに印象悪くないんだね」
都は雪見と一緒にカラオケに行った二人の女子。有村由奈と嶋内和美に話を聞きに行ってくれていた。
彼女たちは雪見の幼馴染で、引っ込み思案な彼女の恋路を応援しようとカラオケでもサポートしていたらしいのだが、雪見と同様絶望的だと感じていたらしい。
「ああ、むしろ好印象だった」
そんなしょうもない嘘も吐かないだろうし。
「一先ず、三人にはそのことを伝えておくね」
それで、と都は話を続ける。
「何か案はあるの?」
当然の疑問だろう。ただ無策と思うこと勿れ。俺には秘策があるのだ。
「あいつらを強引にホテルで二人きりにさせる」
「了解。私が考えておくから邪魔しないでね」
貞操逆転ってレベルじゃないだろこれ 津下佑樹 @ddd_dx
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