第2話

 先生に聞くと、わからないんだといった。

 授業を聞いているような。聞いていないような心境だったと思う。

 眠気もなにもなく。

 その日は一人で家に帰った。


 また、ぽたぽたと大粒の雨。

 彼が交差点の向こうにあるファミレスから出て来た。こちらに気がついた彼が私に向かって叫んだ。


「片山?!」


 交差点を走り出していた私は、彼の背に飛びついた。

 何故だろう。

 はじめて、心細いと感じていたのだろう。

 一人で帰ることが、こんなにも心細いとは。


「俺……。学校辞めるんだ。両親が離婚して、バイトしないといけないんだ」


 私は泣いていた。

 彼の父は会社では、あまり目立たない職だと遥か昔に聞いていたが、どうやらリストラなのではないかと、思った。

「もう新しい人生を歩けって、親父がいうから。俺、ここから調理人目指していくんだ。資格とかよくわからないけど、もう……」

「本当にそれでいいの?」

「いつかは……そうだな。いつかは働かないと」

「本当にそれでいいの?」

「くどいよ。でも、そうだな……」

 彼が俯いた。

 彼は泣いてなんかいないはず。

 でも、瞳から何か光るものが落ちていた。


 彼と一緒に帰っていた川のほとりに、佇むことが多くなった。私は彼のするべきことは、よく知っている。いずれは働かないといけない。けど、どうして? そんなことは、大切なことの後でもいいのではないか?


 空から落ちてくる大粒の雨。

 河川の静かな音色を聴いていた。

 悲しかったけど、きっと、ほんのちょっと待てばいいんだと、自分で思い込みをしてみた。けれども。


 そうだ!


 私は、次の日に学校を辞めた。

 彼のファミレスで働くことにしたのだ。

 両親は不思議と反対しなかった。

 何故か、人には人の道があるんだけど、たまには一緒でもいいかな。と、呟いて。

 けれども、こうもいっていた。


 また、学校を始めなさい。と……。


 それは、私と彼の将来のため。

 今は彼のお金が必要で、また、すぐに学校が始まるのだ。

 そして、一緒の時間が増えて、また、一緒に帰るのだ。



 はじめてなのだろう。

 彼が掛け替えのない。人生を私と一緒に歩いて行く。

 ちょっと、嫌な。

 優しい奴だ。

 そう、私にはわかった。

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川の調べが聞こえる 主道 学 @etoo

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