15話 必殺最強の武器
パーーーン
風船が破裂したような、違うな。ドラマで大袈裟な効果音で鞭を打ったような音が教室に響き渡り、雑談していたクラスのみんなが一瞬で会話を止め、静寂が訪れる
「親がどんな思いで俺たちを生んだが本当にお前わかんのかよ!!生んでくれなかったら、俺らは存在してねーんだぞ。ふざけんな!!!」
その静寂の中、雷鳴が轟き、稲妻が落ちるように怒鳴り、乱暴に教室を出ていく甲塚
「陽介!!あんたなんて事するの!!!」
花屋敷が叫ぶ
なんだ?何があった??
子供のように「痛い」と言ってわんわん泣く女子の声
「眞藤さん」
千早が泣いている女子の名前を呼んだと同時に俺は立ち上がり、教室を出る
「甲塚ぁぁ!!!!!」
階段を上がり屋上、俺は女子を泣かしたそいつの名前を呼び、掴みかかる
「なんだよ。緑山………いきなり」
「お前!!!!眞藤さんを殴っただろ」
「だからなんだよ。俺が悪いのか?アイツの言葉が悪いからだろ」
「女だぞ」
「悪い事を言う奴に男も女も関係ない。殴って悪いかよ」
「男が暴力を振るうなんてな!!!」
「じゃあ言葉の暴力はいいのかよ!!人の気も知らないで!!どれだけ傷つくか知ってるのかよ」
「お前が何言われたかなんて関係ない」
「じゃあ口出すんじゃねー!!!」
甲塚を掴んでいた腕をぐいっと持ち上げられ、俺は綺麗な一本背負いを決められてアスファルトに叩きつけられる
「ったく弱小柔道部が……意気がってるんじゃねーよ」
確かに俺は柔道部だ
小学校の時からやってる
でも
でも
ずっと団体戦のレギュラーじゃない
好きなのに勝ったこともない
弱い
確かに弱いさ
でも一緒にやってくれる友達が居る
でも
でも
好きな女の子に告白する強さも、守ってあげる強さもない
無力だった
甲塚、お前は強いじゃんか
俺よりもずっと強いし
あいつの近くに居れるじゃんか
なんでだよ
なんで傷つけるんだよ
甲塚が居なくなって、誰も居ない屋上で
俺はゆっくりと涙を流した
涙をぬぐい、トイレで顔を洗う
何度も鏡を覗いては、涙の後が無いか、眼は赤くなってないか、確認をする
「気を入れ直せ、泣くな崇」
そう自分に言い聞かせて、気持ちをリセットし、もう一度鏡を覗く
教室に戻るとすぐにチャイムがなって、3時限目の授業が始まる
甲塚は席にすでに戻ってる
眞藤と花屋敷はいない
なぜか菖蒲も尾崎もいない
まさか二人で!!?
なんてな
さっきの事は考えないように
……考えないように
シャーペンを持つ右手が痛い
投げられた時、受け身をとったおかげで少し痛めたらしい
受け身をとらなかったらもっと酷い怪我をしていたかもしれないが……
喧嘩で敵うはずがない相手に喧嘩を挑んだ事は、初めてだったな
俺もあんな事、出来るもんなんだな
腕力で人に勝ったことはない
でも柔道は好きだ
喧嘩で柔道の投げ技や絞め技を使うっていう発想もないわけじゃないけど、使うことはない
使っても腕力では勝てない
技を使うだけ柔道に失礼だろ
でも咄嗟に受け身を考えなくても出来るくらい身体は覚えてるもんなんだな
もしボクシングをやってるヤツがいたら、プロでもない限り喧嘩で技を使うんだろうし、空手や柔道も使えば強いかもしれない
サッカーやってるやつなら、やっぱり蹴りを主に使って喧嘩するんだろうな
ラグビーならタックル?
剣道なら竹刀??
使っちゃマズイだろ
さすがに道具は
でも、もしさっき甲塚に掴みかかった時、俺が簡単に使える道具があったら使っていたかもしれない
自分で言うのもなんだけど、下手な投げ技じゃなく確実に、それこそ竹刀みたいに
………江戸時代に生まれなくて良かった
簡単に真剣で、斬り殺されちゃうんだろうな
さっき俺が真剣持ってたら、俺じゃなくて甲塚が持ってたら
考えただけで、こえーや
持っていたら使いたくなくなるだろうし
それこそ剣じゃなくても、サバイバルナイフだってそうだ
あっだからボウガンで鳥を狙う奴いるのか
じゃあアメリカなんて銃社会だから、咄嗟に銃使う奴もいるし、撃ってみたくてたまらない奴いるだろ
使ってみたかったじゃすまないよな
でも銃もナイフも購入したり、銃なんて線条痕で銃の特定も出来るそうだから犯人なんてすぐバレちゃう
リスクが高い
誰にでも扱えて、犯人を特定されない、必殺の武器、もしくは技
そんなファンタジーの………
そこまで考えたとき、ズボンのポケットの中にある携帯に全神経が集まる
携帯が熱くなったような、バイブ機能みたいに少し震えている感覚
俺はポケットの中に手を入れて携帯を握る
ここにある
ここに必殺の武器がある
絶対にバレない
そして最大の効果がある武器
ジャッキーの呪い
今しかない、俺は廊下側の一番後ろの席だし、隣の席にいるはずの菖蒲はいない
やるなら今しかない
ガラッと俺のすぐ後ろの扉が開く
心臓が口から飛び出すくらいの驚き
しかし俺はポケットの中で携帯を握りしめ耐える
バクンバクンと心臓の鼓動が血液を全身の動脈をいつも以上に強く押し出してるみたいだ
ゆっくりと振り向くとそこには花屋敷がいる
「遅くなってすみません」
一礼して教室に入ってくる
席についた花屋敷に近くの女子が話しかける
たぶん眞藤の事だ
「泣き止ま……けど…頬の腫れ……だって」
全部聴こえたわけじゃない
……けど
頬の腫れ??泣き止まない??
携帯を握っている手に力が加わる
甲塚………お前が悪いんだ……眞藤を傷つけるから
教科書で隠しながら、ゆっくりと携帯をポケットから出す
携帯を開き、画像ファイルを開き、ジャッキーの画像を表示する
昨日と同じはずなのに、ジャッキーが俺の目をじっと見つめて、目の中から脳の奥まで侵入するような感覚
『誰を呪うんだ』
脳に直接声が響き反響してる
誰を?
甲塚陽介に決まっている
甲塚をじっと睨み付ける
『アイツか?』
あぁアイツだ、女子に手をあげる最低な男だ。ジャッキーが最初に殺した男と一緒だ、最低な男なんだ
『アイツを目に焼き付けて、僕を見ろ』
言われたように、甲塚をじっと見た後にジャッキーを見る
甲塚の残像とジャッキーの視点が合っていき、動くはずのないジャッキーの目は甲塚を捉えるかのように、大きくなる
『コイツか、コイツ……殺す』
そうだ、人を傷つけるなら死んだ方がマシだろ
『何回も念じてくれ、僕が殺してやる』
俺はジャッキーの画像と甲塚を交互に見ながら何回も何度も呪いをかけた
死んでしまえ
お前が死ねばいい
三時限目のあいだ
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
休み時間になると剛志と千早がまた俺の席にくる
甲塚への呪いを中断
……………なんかしない
二人と話ながら、俺はジャッキーの画像を思い出し、甲塚を何度も見る
「今日はあと一時限で帰れるねー」
と剛志はテンションが上がっている
俺はもちろん一緒に騒ぐ気分にはなれない
心が黒く、真っ黒く闇に落ちていくのがわかる
剛志にのっかていた千早が俺を見つめ
「タカくん………あのさ」
「なんだよ」
「いや……あのね……」
「ん?」
それ以上しゃべらなくなる千早
言いたい事があるなら言えばいいのに、たまにこんな風に黙ってしまう
千早の悪いところだ、そんなんだからイジメられるんだよ
すると教室の前のドアが開き、保健室から眞藤が戻ってくる
涙の後が目にはしっかりと残っている
それを見て俺の怒りがまた大きくなる
「お前らには関係ねーだろ」
甲塚は、自分の席で他の女子に責められている
聞く耳を持たない様子で机に顔を伏せてしまう
「………タカくんが怒ることじゃないよ」
ふいに千早が俺に言う
「俺が何を怒ってんだよ」
「さっきの……眞藤さんと甲塚くんの事…関係ないんだから」
「は?関係ない??千早はクラスの誰かがイジメられても無視すんのか?」
「でもあれは……痴話喧嘩だし……」
そうかもしれない
恋人同士の痴話喧嘩に、二人の親友の花屋敷が世話するのはわかる………俺が入る理由はない
「僕もそう思うな。崇や千早が誰かに傷つけられたら絶対に、そいつは許さないよ。でも眞藤さんと甲塚くんはじゃれてるだけなんだからさ」
笑いながら剛志が言う
お前らに俺の気持ちがわかるか?
片想いして
遠くで見てることしか出来ない
話す機会があっても、上手く話せない
他の誰かを思っている表情だって、愛しくて
他の誰かと笑っている笑顔だって、恋しくて
その相手が自分じゃないから
辛くて
苦しくて
どうする事も出来ない
好きな人と一緒に居れる彼女の事を
勝手に祝福して
勝手に諦めて
勝手に遠ざけようって思っていたのに
傷つけられたんだ
俺の手の届かない所にいる彼女を
彼女の近くで簡単に届く手が
守るはずの手が
愛する手が
傷つけたんだ
花屋敷も眞藤を守りはしないだろ
クラスの誰だって、甲塚を締め上げる事なんて出来ない
誰が眞藤を守れる
俺だよ
俺には立ち向かう勇気がある
そして立ち向かえる道具を持っている
「崇は眞藤さん好きだからな、片想いはつらいねー 」
「そうなの!?」
朝のやり取りを剛志と千早は始める
でも俺はつっこまない
「俺はやれる事はやる」
そういうと二人は黙ってしまう
「3人でじゃダメ?」
剛志はそう言うけど
「……いや、忘れよう。きっと明日は元に戻ってるか」
俺は明るく振る舞う
「二人が言うように、俺が気にすることじゃねーわ」
心にもない
二人を遠ざけたいだけの嘘
「だよね」
剛志とハイタッチすると、休みの時間が終わるチャイムが鳴る
「……本当だね」
千早はそう言い残して席に戻った
俺は呪いをやめなかった
クラスで本気で眞藤の事を心配しているのは、俺だけなんだ
四時限目の数学の間も
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
ジャッキーに頼んでいた
甲塚を殺して、眞藤を解放してくれ
『どんな殺し方いい?』
苦痛を与える方法がいい、恐怖あたえる方法がいい。例えば屋上から落下するとか
『発見が遅れて、誰が死んだかも、わからない様に殺すか?』
すぐ発見される方がいい、アイツの死体をみんなに晒すんだ
『いつにする?』
もちろん早い方がいい、今日中がいい
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