8話 私の花言葉は

2時限目は日本史

日本史はあんまり得意じゃないけど、朝の陽介を思い出す

今は成富陸奥護郎の伝記を読んでいたって

「今日は授業をやめて少し夏休みのイベントを考えてみようと思う」

小野沢先生が街の歴史的スポットを黒板に書き、それぞれの解説をする

この弓備城町には縄文時代から江戸時代まで、各所に観光地がある

昔から栄えていた町なのに、どれもそんなに有名じゃない所がおかしい

陽介が読んでる伝記の成富陸奥護郎だって他の町での認知度は皆無だと思う

成富が支えていた弓備城くびじょうだって、もうお城はなくて、公園になっていて公園整備の時に古墳の遺跡が見つかって、今では兜塚公園ってなっている

なんでも頭だけを納めてある古墳が出たとかで、兜塚かぶとづかって名前になってて、そんな場所だから幽霊の噂が絶えないとか


「先生のオススメは、弓備城くびじょう跡の兜塚公園だな。ちょっとした心霊スポットになってて、夏休みまだ日の浅いカップルで行くならオススメだぞ」

エロい顔で小野沢先生はそう言う

とっさに私は泪を見る

泪は顔を上げ、陽介を見る

なんなの………イライラ

「小野沢先生が不純異性交際をススメてどうするんですか?」

私は出来るだけ明るく、世話を妬くお母さんのようにそう言うとドッと笑いが起こる

「花屋敷、先生は不純な異性交際は認めない………けど、何が不純かは経験しないと解らないだろ?」

「教師が言うことですか?」

遅いでしょ、それじゃあ……それじゃあ泪に取られちゃうんだから

「わかった、花屋敷さん!私と行こうよ」

ボーイッシュな女子が私を誘う

彼女が菖蒲綾女

性的にオープンすぎる女の子

「おい待て待て、それ不純同姓交際狙いだろ」

男子が突っ込むと、またドッとみんなが笑う

みんなが騒ぐ中、私はもう一度泪を見る


泪は一点を見つめている

その先には陽介がいて………


陽介も泪を見つめている


パチン

ピキッ

ブチッ


私の中で、私の殻を破る何かが育っているのがわかる


私は夏蓮

蓮の花言葉は「清らかな心」なんだ

私が一番、純粋に、陽介を…………

あぁ………でももう一人の私がいう

蓮の花言葉は「離れいく愛」って意味もあるでしょ


落花流水のように

相思相愛になる意味と、別離を意味する言葉のように真逆の意味をもつ蓮の名の私の運命は……

「運命ってさ……やっぱりあるのかな」

朝の陽介の言葉を思い出す


いや

運命なんて、私が変えればいい……私は変える


変えてみせる

例え、誰かに恨まれても


2時限目が終わってすぐに陽介の方から私に話しかけてくる

「さっき小野沢がいってた自由研究だけどさ」

「街の歴史に触れた何かを提出するってやつ?陽介ならもう調べてるんだし、一石二鳥じゃない、っていう夏休み前に提出出来そう」

私は笑顔を送った、でも陽介はいつもと変わった様子はない

「そうなんだけどさ、行ってみたいんだよ……夜の兜塚公園……」

「えー肝だめししたいって事??」

「そうじゃねぇーんだけど、歴史的にも昔から夜の兜塚公園は噂があるんだよ…………一人はさすがに……」

「あらあら、陽介くんオバケが怖いんでちゅか??」

赤ん坊に言うように赤ちゃん言葉で陽介に言うと頭を撫でてみる

反発するだろうと思っていたけど、陽介は頭を撫でられながら

「……だから、頼むよ」

………カワイイ

「陽介のお願いなら、聞いてあげるよ。バイトの帰りに時間作ってあげる」

「あっあぁ……ありがとう……あと眞藤も行くかな」

ピキッ

なんで泪を誘わなきゃいけないんだろ

「どうだろ、一人暮らしなんだし、暇なんじゃないの?聞いてみれば」

「俺が聞くのかよ」

「はいはい、私が聞けばいいのね」


そうだ、その肝だめしで喧嘩させる事も出来るんじゃないの?


陽介と一緒に泪の席に行くと、泪は相変わらず妄想状態

「あっ陽介くん」

と泪が陽介を見て目をキラキラさせながら言う

まったく私もいるってのに

「泪はさっきの小野沢先生の宿題どうするつもり?」

「んー図書館に行ってみようと思ってるけど……」

完全に心は別の場所で、適当に答えているのがよくわかる

本当にわかりやすい子

「夜の兜塚公園の噂って眞藤は知ってるか?」

「えっうん少しね」

陽介からの質問も上の空

こりゃあ重症だ

「私も気になるから、公園に行こうと思ってたら、陽介も気になってるらしいんだけど」

「んーうん」

「泪きいてる??」

「えっうん、聞いてるよ」

やっと泪の目の焦点が私や陽介と合う

「男女が付き合ってもないのに二人で夜出歩いたらマズイだろ」

私はすぐ陽介にあわせる

「うん、そうだね。不審者の噂もあるし」

「だから俺と花屋敷と………眞藤で、兜塚古墳………肝だめしって言うか、噂の検証に行かね?」

「えっ!?」

泪はいつものように固まる

「ほら泪ってまだ日が浅いでしょ、この街の歴史を調べるって一人じゃ無理だと思うって陽介と話してたら、陽介も夜公園に行ってみたいって頼まれてね」

泪が不審に思わないように、陽介が疑わないように、嫌わせるには………

「ダメか?」

陽介が泪の目を覗き込む

その懇願の眼差し、私もその眼差しで見て欲しい

確か、泪は母親と仲が悪かった

先生と出来て地元に居られなくなったくせに、母親を逆恨みしてる

私たちがそれを知らないと思って、母親から逃げたくて弓備城高校に入学した、と言い訳をしていた

私が泪と泪の母親の仲が悪いと知ったのは、本当に些細な事がきっかけだった

入学してすぐのゴールデンウィーク前

うちは店があるから今までずっと旅行も何も計画がないって愚痴を聞いてもらってた

泪は実家に帰るのかと聞いたら、今までに見たことも無い、鬼ような顔で「あんな母のところに帰るわけないよ」と怒鳴った

私は一瞬怖くなったけど、なだめる様にやさしく「お母さんの事、嫌いなんだね。酷いことされたの?」と聞いたら

「親の勝手で、価値観で、私がやりたい事も理解してくれない、何でも否定して……私は勉強も、先生も好きだったのに」

と、中学生が先生と付き合ってたら、そりゃ否定されるだろうとその時も思ったけど、口にはしなかった

泪は否定される事を極端に怖がってる

そう思ったから私が守らないとって………その時は………

親に怒られる、親はわかってくれない

そういう話をすれば、泪はきっと自滅してくれる

陽介に母親の話はタブーなんだよ?

泪、あなたには負けない

「ううん!!いいよ!!」

また何も考えてないような声で泪は返事をする

泪は陽介に笑顔を振り撒いたあと私を見る

ウィンクを泪に返しながら話を進める

「31日は、私バイトが入ってるから終わって……夜9時以降だけど、もし遅れるようだったら先に二人で公園ぐらいまでは行ってて、その方がバイト先から真っ直ぐ行けるし」

「じゃあ、バイト先出るとき携帯に電話して」

泪も話にのってくる

「花屋敷、バイト終わってからじゃ、門限大丈夫なのか?」

去年一緒に受験勉強をしていた陽介は私の家の厳しい門限を知ってる

だから図書館や陽介の家じゃなくて私の家で一緒に勉強していた

ずっと私と居たんだから……

「あぁー大丈夫って言うか、親にはバイトの雑用で帰りが遅くなるっていうつもり、そうじゃなきゃ夜に外に出してもらえないよ」

「そう言えば、自分ちの花屋でバイトすればいいのに、なんでファミレスなの?」

食い付いてきた

「バイトでも何でも接客業を覚えるなら、家じゃなくて外で覚えろ!家だと甘えが出てちゃんとした接客は身に付かない!!………ってお父さんがね」

「厳しいお父さんなんだね」

「門限は9時、中学の時は5時半だよ?部活で遅くなっても怒られたんだから」

「親の勝手だよね」

泪があの表情になっていく

「まぁ、そうだけどさ。子供が憎くていってるんじゃないし」

「親なんて本当に勝手だよ、こっちの言い分なんてお構い無しで、自分が正しいって思っている事、子供に押し付けるんだもん」

私も陽介も言葉を失った

本当に母親を愛していないと容易に想像出来る鬼のような表情

「親を選んで生まれてこれたら、絶対私は今の母親からは生まれなかったな。子供は親のいいなりなんて、おかしいもん」

怒りに満ちた泪

ちょっと想像以上すぎる

「言いたいこと分かるけど、でも親は私達を望んで生んだんだろうし……」

フォローしようとするけど、泪は止まってくれない

「でも、生んでくれなんて頼んだ覚え」

泪が言葉を言い切らないうちに、バシッと大きな音がした

泪が絶句し止まっている

みるみるうちに頬が腫れ上がっていく

陽介が殴ったんだ

「親がどんな思いで俺たちを生んだが本当にお前わかんのかよ!!生んでくれなかったら、俺らは存在してねーんだぞ。ふざけんな!!!」

そう言い放ち、乱暴に教室を出ていく陽介

「陽介!!あんたなんて事するの!!!」

そう言いながら、泪の涙を拭いてあげる

泣きじゃくる泪を献身的に介抱する私

周りにはそう見えてるでしょ

でも私は心の中で勝利を確信して笑っていた

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