9話 私は負けない

泪の頬の腫れを冷やす為、保健室に連れていく

保険の先生は「頬の腫れよりも、泣き止まない方が問題ね」と泪を3時限目は授業を休ませ寝かしておくと提案したので、私もそれを了解して保健室を出る

「あははは」

想像通りの展開

思わず笑みと声が漏れちゃう

絶対的な勝利、あとはトドメ

陽介は私の物なんだから……ぽっと出の女子に渡さない

それが泪でも……

朝まであんなに好きだったのに……

陽介を奪おうとするから……

泪が悪いんだよ


教室に戻ろうと階段を上がる。あと一歩で登りきる私の視界に女性の脚が映る

「夏蓮、泪を保健室に連れていったんですか?」

私を呼び捨てにするその女性

「そうよ。綾女さんはどうしたの?もう授業始まってるよ」

「少し頭が痛いから私も保健室に行こうと思って」

「そう、一人で行ける?」

「さすがクラス委員ですね、ありがとう、でも大丈夫ですよ」

綾女はショートカットで表情もどこか凛々しい、男女ともに人気がある………それはきっと性的にオープンな性格だから

ある意味憧れであり、ある意味そういう対象として見られているだけ、そういう人気

尊敬とかじゃない

入学してすぐ1年生は始まる高校生活の弁論文を書いて、その中でも優秀と思われる作品を、それぞれクラスで一人選んで全校生徒の前で発表する事があった

担任と副担で話し合った結果、私と綾女さんが選ばれたんだけど

「私のは全校生徒の前で主張するような事でもないので、夏蓮お願いします」

と自ら辞退した

クラスのみんなはそれを知らないし、その弁論会おかげで私はクラス委員に選ばれた

でも心の中では綾女さんに劣等感をずっと感じている

分かりやすく言うと、国数英理社の5教科のテスト結果も私の得意な国数理は私はクラスで一番、不得意な英社でも5番以内には入っている

平均点でクラスのトップなんだけど、3位には綾女さんがいる

体育、家庭科、美術、音楽の9教科の場合

私はトップというわけにはいかない

体育、美術、音楽の身体能力で輝きを見せる人には、私の努力では到底追い付けない

せめて筆記試験だけでも良い点を取って上位にはいるんだけど………綾女さんは、9教科合わせた順位はトップになる

うちの高校では、教科は細分化されていて今言った9教科ってのは、あくまで例えだけど、現に中間試験でトップだった私が、期末で抜かれる

「偶然だよ、今回はたまたま」と綾女さんは言うけど………この子のセンスは凄い

私にはもっていない物を、彼女はいっぱい持っている

本当にクラスで一番優秀なのに、蚊帳の外に居て、上から見下ろして私達を観察して楽しんでる

……馬鹿にしないで

「さすがクラス委員って、それって皮肉?」

すれ違う時に、私は綾女さんに聞こえるか聞こえないか微妙な大きさで言う

「それってどういう意味ですか?」

図星だったのか、綾女さんは止まって振り返らずに訊ねる

「そういう意味でしょ。すぐに上から物を言って、馬鹿にしないで」

「上からなんて言ってないですよ」

「それがしてるって言うのよ」

しばらく綾女さんは背を向けて黙ったままでいる

口喧嘩では私が勝ちって事ね

「本当に勝ち負けにこだわる人ですね」

綾女さんは少し身をこなし嫌気がさしたような口調で私を見る

「そうやって上から物を言わないでって言ってるのよ」

「負けたら、どうなるって言うんですか?」

負けるという概念が綾女さんと私とでは違うって事でしょ、試合に負けても、直接的に敗北してはいなければいい、綾女さんは私に負けても平気って意味!?それが上から見てるって言うのよ!!

「負けるより、勝つ方がいいに決まってるでしょ。馬鹿言わないで」

「負けても死ぬわけじゃないでしょ?負けたら全部否定されてしまうんですか?死と同価値なんですか?」

「負けても平気なんておかしいでしょ……私の家はそういう教育じゃなかったから解んないけど」

「負けてるのは、夏蓮の心ですよ」

「はぁ?」

「負けても、明日があるなら、先があるなら………負けた理由と勝った相手を参考にして努力すればいいだけでしょ?。最初から負けることを否定して、何が成せるんですか?」

「負けることを否定してないわ、勝とうとしてるの、何が悪いの?」

「………友達を傷つけてまで?」


パキパキ

ピキッ


またあの音がする

綾女さん、あなたは何の話をしてるの??


「泪を傷つけても、あなたは勝った事にはならないんですよ」


心の中を見てる??

これ

私が綾女さんが苦手な理由

この先読みや見透かすような言葉が私を追い詰める


「それに私は夏蓮に負けても何も思わないとか、そういうんじゃないんです。夏蓮が私に負ける事を意識し過ぎてるんですよ」

「私が自意識過剰って言いたいの!!?やっぱり上から見てるじゃない」

綾女さんは深いため息

「もう私はどう思われてもいいですよ……でも…それを泪に向けないで下さいね」


そう言って綾女さんは階段を降りていく

私は、何も言い返せなくて………


教室に戻ると3時限目は中盤すぎ、明日が終業式ってのもあってやっぱ授業らしい授業じゃなかった

さっきの綾女さんとのやりとりは私のイライラを増幅させる

泪に負けたら、陽介とはもう一緒に遊んだり、話したり、勉強したり出来なくなっちゃうんだよ

そうなってからじゃ遅いでしょ?

誰でもいい綾女さんとは違う

陽介と私は一緒に居て当たり前だったのに、泪が、あの子が私から陽介を奪おうとするのが悪いんじゃないの?


私はもとに戻したいだけ


陽介は席に戻っていて、疲れた顔をしている

根は優しい陽介の事だから、泪を殴った事を後悔してるんだと思う

悪いのは泪、陽介の前で母親の文句を言うんだもん

陽介は悪くないよ

悪いのは……


「泪を傷つけても、あなたは勝った事にはならないんですよ」


勝ち負けにこだわってるわけじゃない

……けど、負けるって……怖い


あぁ……私も陽介が好きなんだよって、陽介にも、泪にも言えれば……楽になるのかな


テストで良い点取れなくて、順位が下がってもそれは私のせいだから、努力も何でもする


……けど、相手の気持ちがある時ってどうすればいいの?

否定されるのは、怖い

私がどんなに頑張っても、私を見てくれないなら意味がないじゃない

学校じゃ教えてくれないし、親にも相談出来ない

……唯一の友達も……相談出来ない


……どうすればいいの?

………どうすれば………


休み時間になると、保健室から泪が戻ってくる

涙の後が目にはしっかりと残っているのに、保健室に行く時みたいな弱々しさはない


クラスの数人の女子が泪に声をかけている

……綾女さんは居ない……まだ保健室にいるのかな

陽介は泪に構う様子はなく、自分の席で他の女子に責められている


悪いのは泪なんだから……陽介を責めないで


「謝るの、泪の方だよ。わかってる?」

私はすぐに泪の席に向かい、泪に念をおす

「うん、わかってるよ」

泣き虫の泪はじっと陽介を見ながら言う

力強い言葉で、表情も凛々しい

「わかってるなら良いけど……」

その表情に私は負けそうになる

陽介が怒った理由を知れば、泪は怯むでしょ

「陽介……お母さんいないの」

「えっ?」

泪は絶句した

「なんで………お母さん……」

「詳しくは、聞いたことない。ただ私が出会ったときには、もう居なかったから」

「羨ましかった………のかな」

「それは、わからないよ。私もお母さんいるもの」

陽介の辛さは想像は出来る

でもそれは想像、もともと母親がいない陽介にとって、母の居ない辛さってのは、私達が想像している物とは違うかもしれない

それに想像は想像

一瞬の事で継続的に母親のいない状態はやっぱり想像出来ない


それは泪も一緒でしょ?

特に泪は母親を嫌っている、自分から離れている

そんな泪に母を亡くした陽介の辛さがわかるわけないでしょ?


「あのね、夏蓮………陽介くんに私の気持ちをちゃんと伝えたい」

泪の視線が私を撃ち抜く

強い

この子は強い

そう思わせる視線

「………本気?」

「うん、もうわかったから」

何がわかったって言うの?

この目の強さ、凛々しさ

………綾女さん?

保健室で何かあった

その解釈が一番納得がいく

私も覚悟を決めるしかないんだ

「わかった。引き返さない……私が、告白の場を作る」

「ありがとう、夏蓮」

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