第二幕 第二話:陰謀

 水路を抜け、私たちは城外の森に足を踏み入れた。木々が鬱蒼と生い茂るこの場所は、昼間であれば光が差し込むだろうが、今は闇に包まれ静寂が支配していた。


「ここなら、しばらくは追っ手も来られないはずだ」


 私は息を整えながら呟く。白蓮も無言のまま頷いた。彼の表情は相変わらず読めない。


「……なぜお前が捕らえられたのか、聞いてもいいか?」


 白蓮はわずかに目を細め、しばし沈黙した。そして、低い声で答えた。


「俺の体には……龍神の血が流れている」


 私は息を呑んだ。


「どういうことだ?」


「白槍国は龍神の血を探し続けていた。そして、俺は幼少の頃に選ばれた存在だった。だが……」


 白蓮は苦笑し、目を伏せる。


「俺自身が龍神の血を受け継いでいたと知ったのは、つい最近のことだった」


 彼の言葉が、私の中で何かをかき乱す。龍神の血は、蒼龍国の王家にのみ受け継がれるはず。しかし、白蓮がそれを持つということは――。


「つまり……お前は、俺と同じ血を持つ者だというのか?」


「そうなるな」


 白蓮は静かに微笑んだ。その表情には、どこか寂しげな影があった。


「だから、俺は捕らえられた。龍神の血を研究し、白槍国の支配に利用しようとした者たちがいた。だが、俺はその計画に反抗し……処刑されることになった」


 私は拳を握る。蒼龍国の皇子として生まれながらも、龍神の血に縛られた運命。その呪縛が、白蓮にも絡みついていたのか。


「このままでは、お前も俺も、道具にされる」


 白蓮の言葉が、森の静寂に溶け込んだ。彼の瞳には、もはや諦めではなく、何かを決意した強さが宿っていた。


「……ならば、俺たちで抗おう」


 その言葉を口にした瞬間、私の中で何かが決まった。龍神の血が引き起こす陰謀に、私たちは巻き込まれている。しかし、それに従うつもりはない。


 白蓮は一瞬、驚いたように私を見たが、すぐに微笑んだ。


「お前となら……それも悪くない」


 私たちは森の奥へと歩みを進めた。

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