第二章 第三話:皇位争い
森の静寂を抜けた先に、私たちは身を寄せるための隠れ家を求めた。白蓮は疲れを見せることなく、静かに歩いていたが、彼の肩には囚われた際にできた無数の傷が刻まれていた。
私たちは古びた山小屋に辿り着き、ようやく腰を下ろすことができた。焚き火の小さな炎が揺らめく中、白蓮は黙ったまま、薪をくべる。沈黙が二人の間に横たわるが、それは居心地の悪いものではなかった。
「王都はどうなっている?」
白蓮がぽつりと呟いた。私は炎を見つめたまま、考えを巡らせる。
「兄上――
李炎は冷徹な軍師であり、私の異母兄だ。王族としての立場を持ちながら、己の野心を決して表に出さない。だが、私が王宮を離れた今、彼がどんな策を巡らせているのかは明白だった。
「俺がいなくなったことで、次の皇位継承者が確定する。だが、それは表向きの話だ」
私は拳を握りしめた。龍神の血を引く者として、皇族の中でも特別な立場にある。私の存在は、単なる皇子ではなく、王権の象徴でもあった。
「李炎が皇位を狙うのは当然だろう。俺が戻らなければ、皇帝の座はほぼ彼のものとなる」
「……お前は戻るつもりか?」
白蓮の問いに、私は沈黙した。もし私が戻れば、李炎と真っ向から対立することになる。そして、私だけではなく、白蓮も巻き込まれることは避けられない。
「今のままでは、戻ることも、戦うこともできない。俺はただの逃亡者だ」
「なら、力をつけるしかないな」
白蓮はゆっくりと剣を抜き、その刃を炎にかざした。朱色に染まった刃が、揺らめく光を反射する。
「お前が皇位を継ぐつもりなら、王宮へ戻るだけでは足りない。敵を打ち倒す力が必要だ」
「……分かっている」
私は深く息を吐いた。王宮を出るときには想像もしなかった状況に、今は置かれている。だが、逃げるわけにはいかない。
「俺は龍神の血を引く王族として生まれた。その運命に抗うつもりはない。だが、李炎にこの国を好きにさせるわけにもいかない」
白蓮は満足げに頷いた。
「なら、鍛え直せ。お前の剣はまだ鈍い」
私は小さく笑った。
「お前に鍛えられるのは、少し気が引けるがな」
「安心しろ。生き残る術を教えてやるだけだ」
火の粉が舞い上がる。私たちは剣を交えながら、新たな戦いに備えるのだった。
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