Prologue 雨


「もう来たのね、せっかちなんだから。彼らは、黒龍華よ。短気な子が多いけど気を付けてね」



「……ちょ、っ!?」



燈璃はそう言うと、黒いフードを目元まで被り顔を隠して立ち上がると私を置いて人混みへと消えて行った。




大きな爆音は、私の方へと近寄ってきていた。周りにいた人達は、早足で逃げて行く。私が屈みこんでいる場所だけがひらけていくと、眩しいライトが私を照らす。




「……燈璃っ!!」




1台のバイクが私の目の前で停ると、金髪の長身の男が大きな声で“ 燈璃”の名前を呼びながら降りて来て私の目の前で止まる。




「……探したんだぞ、バカ」




端正な顔を歪めながら、私を見つめると屈みこんで壊れ物を触るかのように震える手で優しく私を抱き締めた。



私は、燈璃じゃない……そう伝えたいのに限界を迎えた私の身体は動いてくれず。

その腕の中で、意識を手放した―――。




誰かの慌てる声が遠く聞こえる。

視界は黒に染まり、私の声は誰にも届かないまま―――。


















私は、捕まってしまった。

もう、逃げる事は許されない。




あの子の名前が私を縛り、苦しめる。

私を、杏樹として生きてきた時間を殺していくように。




これは、あの子からの私への“ 復讐”。

何も知らずに生きていた私への。














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