Prologue 雨
強く降り続く雨が私の体を濡らす。
私の心の中を映し出すかのように、空は黒い雲で覆われ、大粒の雨を降らせていた。
そんな中、傘もささずにフラフラと歩く私は異質で、通り過ぎる人達は私を避けて歩く。
どこに向かっているのかわからない。水を含んだ制服や靴は私の体温を奪い、体に張り付き気持ち悪い。
「……
自然と青ざめ震えている唇から発した名前は、小さい頃から一緒に育ってきた大好きな幼馴染みの名前。いつでも、この名前を呼ぶと心配そうな顔で駆け寄ってくれるのに、翔琉は私のそばにいない。
「……っ、!?」
体温を失い、身体に纏わり付く水を含んだ衣服の重さに耐えきれなくなった私の足は膝から力が抜けていくように地面に崩れていく。
冷えた自分の身体を抱きしめながら、その場に蹲る。
私は、いつから幼馴染みの翔琉に恋をしていたんだろう。多分、初めて出会った時からずっと翔琉を想っていた。幼馴染みとしてでは無く、彼女として翔琉の隣に居たいと私が欲を出してしまったから……翔琉にあんなにも困惑させた顔をさせてしまったんだ。
「……翔琉、っ……」
唇から小さく零れた大好きな人の名前は雨の中歩く人の足音、雨の音に掻き消される。
私の中の翔琉への想いも一緒にかき消してくれたらいいのに。
思考が停止していく中、翔琉のさっきの顔だけが一向に消えてくれない。
帰らなきゃと思うのに、足は思い通りに動いてくれない。私、何してるんだろ……。
「見ーつけた」
嬉々としている甲高い声が後ろから聞こえると同時に私の肩に暖かい小さな手が触れた。
「……え?わ、たし……?」
後ろを振り返ると、私と瓜二つな女の子が赤い唇で弧を描き私を見下ろしていた。
長い艶やかな黒髪に、白い肌、大きな瞳、そして、左目の下に二つ並んだホクロ。
「ずっーーと、探していたのよ?私の身代わりやっと見つけたわ」
「……身代わり……?」
嬉々として語る彼女の言ってる言葉が一つも理解が出来なかった。私が理解していないことを察したのか私と目線を合わせるように彼女は屈んで真正面から私を見てくる。
「見れば見るほどそっくりね。目の下のホクロが反対にあるくらい。これなら、彼らも分からないはず。私の居場所で苦しんでよ――。」
あの人達……?そして、彼女が最後に発した言葉は雨に掻き消され私の耳に届く事が無かった。
この子は、誰なの。
「もうすぐ、お迎えが来るわ。
「どうして、私の名前を……?」
「私は、
「何を言って……っ!?」
笑っているはずなのに、大きな瞳は笑っていなくて寒さとは別に身体が震えた。どうして、私はこの子に、燈璃に恨まれているのか分からず聞き返そうと声を発すると大きな音と明るいライトに照らされる。
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