第6‐2話 理論


 時を戻して数分前、コンビニに向かっている道中。


「俺のダメージを無かったことにできる?」

「ああ、だがいくつかルールがある」


 相棒は指を三の形にして続けた。


「ルールは三つ、まず俺が変身できる場所はお前の心臓、脳とある程度距離があるところ……腕とか足とかな。だから首を切断されたり、胴を真っ二つにされたりでもしたらもう俺にはどうしようもない」

「……それで、それが一つ目だとしてあと二つは?」


 相棒は淡々と続ける。


「二つ目は手足を同時に切断された場合の話だ。この時、俺はどちらも治すことはできる。けどどれか一本からしか修復できない。時間がかかるし俺の体力的にも結構きついんだよな。まあ、同時の定義は曖昧だから全く同時に切断された場合だけ! ってわけでもない……はず!」


「けがを無理やり直すってことだから体力を使うのは当たり前……か……?」


 コクっと頷きさらに続ける。


「で最後は……ちょっと複雑なんだよな。どう説明したらいいか……そうだな、まず結論から言うと『俺がお前の体を離れてるときに手足を切断されたらそれは修復できない』んだ」


 涼しい風が、二人の間を通り過ぎた。


「……ふーん?」

「例えるとお前の腕や足にはそれぞれドアがあるんだ。そこを出入りして俺は外に出たり、そこの部位を修復することができる」


 険しい朔良の表情が少しだけ明るくなった。


「けんど、俺が出ているときに腕を切断されたらそのドアが感知できなくなるんだ。お前の心臓とか脳がドアを探す電波塔みたいな役割なんだよな。その周波を感じ取って俺はドアを探してる」

「なるほど! つまり、相棒が外に出てる間は怪我すんなってことか」


 手をポンと叩き言った。しかし、再び険しい顔になる。


「――んじゃあ、同時に切断されたときはどうしてセーフなの? 片方の腕に離れたらもう片方の腕のドアは見えるの?」


 新たな疑問が降りかかる。


「あくまでも切断された腕にいる時はお前の“中にいる”判定のはずだからな。理論上周波は見えるし、時間かければ全部治せるはずだぞ。つまり、俺が常にお前の中にいてお前が死なない限り、四肢をもがれても五体満足で復活できるってわけだ」


 何か喋っている時の相棒は本当に楽しそうだ。


「ほー……なんとなく仕組みはわかったけど……じゃあ怪我って結局どうやって治してるの? 痛いの痛いの飛んでけー! 理論なの?」

「は?」


 ナチュラルな返しはそれはそれで来るものがある。


「う……怪我が君に伝染っちゃったりとかはしないんだよね?」

「無いな。これは確信できる」

「どうしてよ! 詳しく知らないんでしょ?」


 相棒は依然、飄々としている。


「――何でかわかんないけど“わかるんだ”絶対、そうはならないって」


 「そこまで言うなら……でも、怪我しなければいいんだからさ! んね!」


 親指を立て、相棒に突き出す。


「フンッ。さて、そろそろ作戦、聞かせてくれよ」



***



時間は戻り、現在


「クソっ! 全部崩れた……!」


 震える手、背筋を伝う冷えた汗、鮮明だった。それでも、止まってはいけない。


「ねぇ!? 首狙うって事でいい!?」


{んあー……多分な。お前がガラスと石投げた時、やけにかばっているように見えた。あと、お前の攻撃さっきから胴体にしか当たってねぇぞ。消耗戦に持ち込まれたら分が悪いのはこっち――おい?}


「うっ……! え? なんて!?」


 ちょうどナイフと腕で鍔迫り合いをしていて相棒の駄々長い考察を聞いている場合ではなかった。


{はあ……さっさと勝てって言ったんだ!}

「っ了解!」


 バチンと、頭部に回し蹴りを入れる。段々体が温まってきた。


{なんだよ、話聞いてんじゃねえの}

「どうだろう、ね!」


 一気に間合いに入り首元目掛けナイフを振り上げる。


(取った!!)


 奴の喉元にナイフが到達するその瞬間。

 何かが、囁いた。


――君には、無理だ

 

「ッ!?」


 目の前が真っ暗になった。突然夜が来たかのように何も見えない。ただ、その暗闇で一際目立つ“色”が。


「……ぐぶっ…………」


(何?これ、血?)


 脇腹と、口元からドロドロと溢れる。


 呼吸が狭い。

 

 視野が暗い。


(む、無理。死ぬ、やだ、まだ、やだ。死ぬ、死ぬ、死――)


 ストンッと、跪く。敵を目の前にして、顔を上げることすら――

{朔良!! 前を見ろぉ!!}


 相棒の声で正気に戻る。腕を構えられ、振り下ろされる瞬間だった。


「うっ、うおおおおおお!!!」

 力を振り絞り、化け物の胴を思いっきり掴んだ。だが奴の腕は朔良の頭部の真上。


 一人は笑みを浮かべ、一人は顔を歪ませた。

 決着を、確信したから。


――だが一人は、


「!?」


 突然ガクンッと化け物の動きがおかしくなり、

 少し前の蹴りを入れられ、蹲っている体勢に。


「あ、れ?」

{朔良!! 今だ!!}


「っうう!!」


(痛い痛い痛い!!! 俺は!! 俺には!!)


「勝つのは! 仲間がいる方だああああああ!!」


 首元にナイフを突き刺す。化け物は暴れだすどころか叫ぶこともない。

 静かに塵となり、風に乗ってそのまま消えていった。


「はあ……はあ……お、おわっ……たぁ!?」


 全身から力が抜け、無意識に大の字になって倒れこんでしまう。

 傷はどれも深刻で、特に腹からの出血がひどく、意識は朦朧としている。


「おいおい大丈夫かよぉ……今手当――ん? これは……」


 野球ボールぐらいの球体を拾い上げる。


「朔良、これなんだ?」


 よく見てみると、タイマーがあり、秒数が三、二……と刻まれている。さらに、ピッ……ピッ……ピピピピピピピピ

「っ! 投げて!!」


「フン!!」


 全てがゆっくり動いている。飛んでいく爆弾も、相棒も、自分も――


「ゲッホ!! おい! 大丈夫か!?」


 必死で黒煙をかき分け、相棒が声を張り上げる。


(良かった……生きてる――あぁ、服ボロボロ……まいいや。ちょっと、疲れた……し――――)


「っおい!! 起きろ!! 俺達は勝ったんだぞ!! 起きろって!」


(そうだ、次……くっそ……こんなところで……誰か、父さん……母さん……誰……か――――)



***

 


「……フフ」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



どうも、しぇがみんです。

{}は相棒が朔良の体内にいるとき、そこから話しかけているという状態です。

次回をご期待くださいませ。

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