第6話 臨戦

 嫌な音とともにあるはずのものが無くなっていく。


「ぐぅっ……!」


(見えなかった……! 一瞬で……クソッ!)


 パタタッと地に滴る血と右腕に別れを告げ、高く跳躍し距離をとる。


「来い!」


 ナイフを構え、臨戦態勢に入る。と、今度は左腕目掛け、腕を振り下ろしてきた。


「フンッ!」

 ガギィと金属音を鳴らしながら寸での所で受け止めた。相棒と同化してからは身体能力だけでなく、動体視力も飛躍的に向上しているようだ。


 (よし! やれる……!)


 奴の腕をナイフで受け流すように体を一回転させ、胴体めがけて振りかぶる。


「くら――え゛っ!!」

 隙だらけ、と言わんばかりに朔良の腹を蹴飛ばす。凄まじい勢いで吹き飛んだが運良く車の横部分に激突。クッションの役割を果たし、何とか事なきを得た。


(立て……! 早く戻れ!)


 恐怖を拭うように膝を引っ叩き、自らを鼓舞。車を背に全速力で走りだし、一気に間合いを詰める。


「っらぁ!!」


 ナイフで思いっきり切りつける――否、叫んだだけでナイフは振っていない。頭への攻撃を予測した奴の胴はがら空きだ。


「ここだ!」

 かなり深く入り、化け物の腹部をえぐり取った。

 のもつかの間、奴の腹部はみるみる修復していき、すぐに元通り。再び距離を取られてしまう。


(キモっ! やっぱ生半可な攻撃じゃ無理か……あーもう! ここでやるしか……!)


 大きく息を吸い込み、化け物めがけてナイフをぶん投げる。

 が、弾かれてしまい、朔良の右腕の方向へ。奴は気にせず、そのままこちらに狙いを定める。


 奴が走り出そうと構えた瞬間。


「今だ! 相棒!」


 合図とともに地面に転がっていた朔良の右腕が相棒の姿に変わる。


「ムグッ!」

 弾かれて、宙を舞うナイフをキャッチ。

「ふらえっ!」


 辛うじて口でキャッチしたのでなんて言ったかわからないのはこの際置いておいて、ナイフは化け物の足に命中し、ガクッと膝をついた。


「オラァ!!」

 間髪入れずに朔良が倒れこむ化け物に膝蹴りし、空中へ吹き飛ばす。


「相棒! ナイフ!」

 そう言い終わる前にこちらに投げられていたナイフをキャッチし、無気力に落ちてくる化け物目掛け、心臓部分へ突き刺した瞬間、再び不愉快な声で叫びだす。


「うるっ……! 大人しくしろ!!」


 あまりにもだえ苦しむので、地面に押し付けられず、吹き飛ばされてしまう。


「クソッ、ここから追撃するよ!」

「さっき聞いた!」


 そう言い残すと相棒が朔良の右腕に戻ってきた。

 全速力で走り、刺さっているナイフを踏みつける。


 ナイフはさらに深くまで刺さりこみ、化け物は痛みに耐えられず、相変わらずの声で叫んだ。


「ッ! 耳がぁっ……」


 高架下で通過中の電車の音を間近で聞くかのような苦痛に耐えきれず、朔良は思わず距離を取る。


(動け俺!!)


 すかさず、側に落ちていたガラスの破片と石を投げる。

 勢いそのまま、朔良は全力で走り出した。


 ガラス片は足に命中。だが、頭を狙った石は防がれてしまう。

 しかし。


(ガラ空きだ!)

 頭部をその大きな腕でガードしたため、朔良が見えないだけでなく、おまけに胴も隙だらけ。右フックをお見舞いする。


(このまま、もう一発……!)


 回し蹴りを、再び胴体に鋭く刺す。


「なっ!」


 化け物が朔良の足を止め、つかんだ。不敵に笑う表情は、朔良を一瞬出遅らせる。

 我に返った朔良は慌てて拳を振るが既に遅く、掴まれた足を切断されてしまう。


「うぐっ……!」

{朔良!!}


 相棒の声が聞こえたそのすぐ後、足が修復されているのを理解する。


「オラァ!!」


 修復されたばかりの足で無理矢理化け物を蹴り飛ばし、一旦物陰に逃げ込んだ。


「あの表情……今までのは演技ってわけ……?」

「いや、効いてない訳でもなさそうだぞ」


 落ち着いた声で相棒が言った。今は右腕の代わりに出てきている。


「あいつ、俺達と違って傷を修復することはできてもダメージを無くすことはできないみたいだ。さっき俺たちが攻撃した部分が白くなってた。白と他を比べると攻撃も通りやすくなってたぜ……!」


 この観察眼は本当に頼りになる。


「じゃあこのまま攻撃を続ければ!」


 ふと、相棒が壁の後ろを覗き込む。

 シュゥーと音を立て、白い煙が全身から立ち込めている化け物の姿が。


 さらによく見るとだんだんと白色の、残っていた傷跡が完全に治ってきているのがわかった。


「ッ! ――撤回だ。あいつ欠損の修復との時間差はあるけど完全回復できると思うぜ……」

「ならどうすれば――ッな!」

 直後、背にしていた壁が切り刻まれる。化け物が二人の間から飛び出してきた。


「クソッ――首だ! 首! そこに弱点があるはず!」

 そう言い残し、相棒は逃げるように朔良の右腕に戻った。


(首……蹴るのは……破壊できるか怪しいか。なら!)


 先程奴が倒れていたところにナイフを発見。

 取りに行こうとした瞬間――


「速ッ……!」

 化け物が真横に現れる。

 足の速さはこちらが上回っていたはずだった。


(こいつッ! まだ何か隠して――!?)


 化け物の異変に気がつき、とっさに離れる。

 だが、離れる以上のスピードで化け物は朔良の間合いに入り込んだ。


 まずは左フックが、朔良の右脇腹にクリーンヒット。

「ゴフッ!」


(これッ……さっき俺が……!)


「真似ッ……すんじゃねぇ!!」

 足で化け物の右脇を蹴り上げる。

 強烈な勢いで炸裂し、奴の右腕がプラプラしている。


「ッうう!」

 鳩尾の痛みに耐え、なんとかナイフを回収。


 再び、化け物の方へ向き直す、と。


「!?」


 とんでもない声量で叫びながら取れかかっていた右腕を自ら引き抜いた。

 朔良は、完全に呆気にとられている。


 その一瞬の隙に、化け物は腕を投げた。


「ぐッ……! 腕、を!?」

 咄嗟に姿勢をそらすが、朔良の左腕に突き刺さってしまう。


 今までにない攻撃を食らい、完全に態勢が崩れた。


{待ってろ朔良! 今――}

「ダメだ!!」


 声だけでなく、動きすらも制限するように叫ぶ。


「刺さってる状態でッ……君が出てきたら何が起こるかわからない! ――ちょっと待って……!」


(これが出てきた相棒にそのまま刺さっていたら腕どころかっ……!)


「ぐうぅっ!!」


 無理やり化け物の腕を引き抜いた。


「はあ……! お……お願い!!」


 合図とともに腕から変身し、すぐに戻る。

 腕は元通りになった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 お初にお目にかかります。

 復讐は虚しいですね。

 次回をご期待くださいませ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る