第5話 同等
白い。現実とはかけ離れた……膜に包まれたような……
(ここは……)
早く戻れって
「っ!」
ガバっと上半身を起こす。
「……どれくらい寝てた?」
「二、三分程度」
朔良はほっと胸をなでおろした。
「そっか……じゃああいつ、まだあそこにいるかな」
「な、なんでそんなことに安心するんだよ」
「いや……これからあいつ倒しに行こうと思って」
「はあ!?」
朔良に飛びかかる。
「お前っ……ふざけんのも大概にしろよ! あいつを倒す? 俺たちゃあいつに殺されかけてんだぞ!? 圧倒的な実力差で弄ぶようにな!」
首をブンブン振り回す。
「それをお前、ちょっと高くジャンプできたくらいで……! 寝言は寝て言え勘違い野郎!」
「待って待って。俺だって真面に戦って勝てるなんて思ってないよ」
なだめる立場が逆転した。だが少なくとも、どちらも朔良に非があるのは確かだ。
「だけど……どんな手使ってでも……あいつを倒さないといけない」
「倒す必要ないだろ。少なくとも、今のお前ならあいつから逃げ切れる」
頭終わってんのか、と言いたげな顔だ。
「そうだね、多分俺達だけなら。でもここに居る皆は? ……俺達が奴を殺さないと――」
相棒は溜息をついた。
「お前の言い分はよーくわかった……けど俺からも言わせてもらうぜ」
朔良は静かにうなずく。
「俺は
「……大体80億人ぐらい」
「は?」
目を見開き、明らかに動揺してるのがうかがえる。
ハッと気が付き、大きく咳払い。
「――そんで、その80億人がお前以外皆動いてねぇんだろ?」
「……多分」
断定は出来ないし、したくはなかった。
「あのなぁ……お前が家族や友達が大事なのはよくわかる。けど……無理に戦って死んじまったらどーすんだ?全体で考えてみろよ。お前が救わなきゃいけないのはここにいる数百人だけじゃない可能性がある、ってかその方が高いんだろ?」
「……うん」
何も言い返せない。
「俺が言いてぇのはここでリスクを冒すのは危険すぎるんじゃねぇのかって事。それより、ここを離れて人間が止まった原因を探した方がいいんじゃねぇかって」
段々と相棒の声色が低く、小さくなっていく。
「そう……だね――ぇ」
気がついた。しかし遅い、遅すぎる。
「……それでも――」
(震えて……相棒の……)
その手の振動は、恐怖が滲み出たものだと、今更気がついた。
「それでもっ……行くのか?」
相棒は目に涙を浮かべそう言った。
朔良はまた、繰り返す。あの光景、あの今際を。しかし次に焦点がいったのは自分ではなかった。
瞬間を目の当たりにし、絶望する相棒の姿に。
(怖かったんだ。相棒も。当たり前だよな……目の前で死んだやつが、何で気付いてあげられないんだか……)
きっと、想像を絶するほどの目に遭ったのだろう。気の大きい相棒とは思えないほどの仕草と声。
ただ情けない。自らの勝手さが。
その恐怖にも気がつけない鈍感さが。
(やっぱり無理だ。ジャンプが高くなったって、救うとか守るとか。俺にそんな資格なんて――)
『頼んだ』
額にツーンと痛みが走った――気がした。春風のように爽やかな衝撃は、畏怖をゆっくりと空の彼方へ送っていく。
「――それでも、俺は行く」
「……フンッ」
相棒は鼻息を鳴らすだけで、何も言おうとしない。
「でもさ、君にその使命は無いと思う。あいつを俺が倒せばしばらくは安全なはずだからさ……一人旅になっちゃうかもしれないけどきっと退屈はしないよ
「ッ!」
額に再び、衝撃が走る。重たい鐘のような音が響く。
「ふざけんなっ! お前と俺は同じ体共有してんだ! どっちかが死んだら死ぬ! カッコつけようとか……ふざけんな!!」
まさに必死で。当人すら頭に痛みを伴うほどの勢いだったはずなのに。
「え……?」
後ずさりし、尻もちをつく。
「何で」
目頭が熱くなると同時に、今までの自らの無責任な発言を悔いた。
「そんなん……もう嫌だからだよ。独りは」
「……!」
涙が止まらない。拭うという動作を、思考をも、その衝撃が置いてきぼりにした。
「あーあ、言わねぇつもりだったんだけどなぁ……」
やれやれ、と首を横に振る。
「な、なら……俺は……どうしたら……」
小さく鼻を鳴らし、朔良の元に近づく。
「付き合うぜ。“相棒”だしな」
朔良の胸に軽くパンチ。胸からフワッと金色の光が溢れた。
そっと相棒を抱きしめ、そのまま目を瞑る。
“長い静寂が続く。痛いほどの光を注がせる太陽も
今ばかりは空気を読んでいただろう”
「ごめん……俺っ、相棒……だなんて、無責任な――」
「モゴッ、ムグムッ……ムー!!」
ハッと我に返る朔良。気づけば相棒が若干体にめり込んでいた。
「プハッ……バカ! ――ったく、気にしてねぇよ。言おうとしなかった俺にも責任あるし。そこまで気負う必要はねぇ。別に相棒って名前嫌いなわけでも……ないし」
「相棒……」
朔良の顔はもうぐっちゃぐちゃ。
「はぁ……さっさと行くぞ、顔洗え」
コンビニの方角を指す。
顔を拭きつつ、ゆっくり歩き始めた。
「でもよぉ。どうして俺ん事を“相棒”って呼ぼうと思ったんだ?」
「まぁいい名前がわかんなかったから――」
少し黙ってからコクリとひとりでに頷き、口を開く。
「――“相棒”ってさ、パートナーを支え合うっていう意味の存在じゃん?相棒は俺の事をもう何回も励まして、鼓舞してくれたから。だから、俺も相棒の“相棒”として君を支えたいって思った……から」
鼻をすすりながら何とか喋り切る。
「……フン。まあ及第点ってとこだな。言い訳にしちゃよく言えてる」
耳をピクピクさせ、顔を赤らめながら言った。
「るっさいなあ……そーゆーとこだぞ、相棒」
「んじゃあ、由来通り甘えちゃおっかな……ジュース持ってきてよ」
「名前変える? たかし、ボブ、クリス……」
すっかりいつものリズム。
「はいはい、ほら歩け歩け」
そう言うとクルッと空中で回転し、朔良の右腕に戻ってくる。腕が元通りになったことを確認し、朔良はコンビニへ向かっていった。
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どうも、しぇがみんです。
「相棒」だなんて呼べるような存在、憧れちゃいます。私だけですかね。
続きをご期待くださいませ。
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