スキマ

プロジェクト・ハルカ

スキマ

幼い頃から小さな世界が好きだった


たまにしか行けない公園、滑り台の下にある秘密基地

幼稚園の渡り廊下、遊戯室のそばにある行き止まり

ほこりっぽい押し入れの中、空想に溶け出す大宇宙


ルールも競争も苦手な僕達にとって

小さな世界は隠れ家だった


秘密基地の地面に描いた未知の大陸

廊下の隅で初恋の子と密会した記憶

押し入れに寝転ぶ二時間で、二億日におくにちの宇宙旅行ができる僕達の想像


小さな世界だけが僕達の本物だった



身体が少し大きくなって

物理法則が小さな世界を拒んでも

僕達の心は小さな世界を求めていた


僕達は大きな何かに抗って

小さな世界を求め続けた


お気に入りを詰め込んだポケットの中のiPodも

背伸びして作った小さなホームページも

そこに書き殴った大きすぎる夢も


思えば全てが、小さな世界からの忘れ物だった




時間が不確かな速度で進んだ後

僕達は大きな世界の小さな一人になった


大きな世界のありふれた出来事が

少しずつ僕達の心を食べていって


あの頃は普通じゃなかった出来事が

少しずつ普通になっていく


小さな世界は、大きさを間違えた今の僕達には遠すぎる




やがて小さな世界の共犯者だったあの子が、眠りについた

それさえも大きな世界にとっては普通の出来事みたいだ


あの子が生きられない世界なんて滅んでしまえばいいのに




息を吸うことが酷く苦しい夜

小さな世界の微かな足音が聴こえる


小さな世界は姿を隠したまま

足音だけを残して、あの頃の僕達の元へ帰って行く


寄せては返す波のように

そんな夜はやってくる


大きな世界の小さな僕は思う


あの小さな世界をもう一度見つける事ができれば

僕の残り時間は少しだけ楽になるのかもしれない


それはあまりにも果てしなく

見つけたところで、手遅れなのかもしれないけれど


それでも、

夢の中でもいい

僕はあの子に会いたかった



大好きな思い出がある

滑り台に寝転んだ僕と

僕を覗き込む大好きな笑顔


あの子がもう少しだけ楽しく生きられたはずの世界を

僕は探したい



僕は大きな身体の不器用な手足で探してる

この世界の小さな綻びを


もう一度、あの子が生まれてきた時

息を吸うことが辛くないような

小さな世界を創るために

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