Column6 「いや増し」とは何か

 今回は、「いや増し」について取り上げようと思います。


     ☆


 少し前、知人に次のように聞かれたことがありました。


「読んでいた本に『いや増し』ってあったんだけど、この意味って何? 『否増し』ってことじゃないの?」と。


 一応、該当する箇所を読んでみたのですが、知人が言ったように「否増し」とすると意味が通じないと思ったので、これは別の意味であることが分かりました。


 それと同時に何故知人が「否増し」と思ったのかというと、人々がよく耳にする「いや」には、「否応なし」の「否」や、「いやな奴」などに使われる「嫌(もしくは「厭」)」が多いため、「いや増し」と聞いて、否定の意味として捉えたのだろうと思います。


 では今回の場合の「いや」は、何かというと「弥」のことです。

 前作『難しい日本語』の「いやが上」のColumnの際に登場したものなので、「お、あれか」と気づいた方もいるかもしれませんね。


 読んでいらっしゃらない方もいると思うので、「弥」について改めて説明しますと、これは「ますます」「いよいよ」と言う意味があるんですね。また「一段と」「非常に」という強調する意味もあります。(『明鏡国語辞典 第三版』『デジタル大辞泉』参照)

 他にも意味はありますが、ここでは「ますます」「いよいよ」だけ分かっていれば大丈夫です。


 上記の意味での「いや」は古風な言い方なので、最近ではあまり聞かないかもしれませんが、皆さん、「弥」という漢字なら分かると思います。

 陰暦の三月を示す「弥生」にも含まれているので、皆さんもご存じのことでしょう。

 この「弥生」の「弥(いや)」は、「ますます」「いよいよ」という意味で使われていて、「弥生」には「草木がますます生い茂ること」(『デジタル大辞泉』より引用)という意味という意味があります。

 草木が冬を越えて春に一斉に芽吹く様にぴったりだな、なんて私なんかは思うんですけど、どうですかね。


 ここまでの話を踏まえて「いや増し」を考えると、これは「弥増し」のことを示しているのです。ゆえに意味は「ますます増し(て)」となります。


 知人にそれを伝えると「そうなんだ」と言っていましたが、前述したように「いや」は古風な言い方であるため、最近の書籍にはあまり見かけません。ですから、知人が読み違えるのも無理からぬことかと思います。

 もしかすると、今後はもっと分からないという方も増えてしまうかもしれません。


 ただ、個人的には漢字の意味からしても風情があるように思うので、これからもひっそりとでいいので使われていくといいなぁ、知っている人がいてくれるといいなぁ、なんて思います。


 

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