3-12 結界の修復
「すべての数値、正常範囲内です」
リリアが安堵の声を上げる。
幻想世界には、再び穏やかな光が満ちていた。
「三つの浄化魔道具も、予定通り機能してる」
ボクはデバイスの画面を確認する。
北部、東部、西部。それぞれのセクターに設置された装置が、結界の安定に寄与していた。
「これで無事、任務完了ですね」
ルシェが静かに告げる。その表情には安堵の色が浮かんでいた。
「リリアさん、ルシェさん......ありがとう」
ミレイが深々と頭を下げる。
「ウチ一人やったら、きっと逃げ出してた。みんながおったから、自分と向き合えた」
「ミレイさんこそ、よく頑張りましたね」
「ウチも驚いてるぇ。こないな力が、ずっとウチの中にあったなんて」
ミレイが自分の手のひらを見つめる。
その瞳には、もう迷いはなかった。
「でも不思議やな。星光竜が見えるって、こんなに心が軽くなるもんやったんや」
「自分の力を受け入れることって、大切なことですもんね」
リリアがそっと微笑む。型に収まらない魔力を持つ彼女だからこそ、その言葉には重みがあった。
「これからは、この力で誰かの役に立ちたいなぁ」
ミレイの言葉に、ルシェが静かに頷く。
「商人としても、星光竜を見る者としても。両方のミレイ殿でいいのですよ」
「うん、そうやね。もう、隠すことから逃げないぇ」
光の宮殿は、既に姿を消していた。
しかし、ミレイの心には確かな記憶が刻まれている。
「それにしても......」
ボクは空を見上げる。
結界の彼方で、星のような光が瞬いていた。
「ステラヴェイルは、ウチの近くにおるんよ。もう、見えへんフリをせんでも分かるぇ」
ミレイが空を見上げながら微笑む。
「次に会う時は、もっと強くなってるから。商人としても、星光竜を見る者としても」
「じゃあ、帰還の準備をするよ」
「system.logout();《帰還、開始》」
意識が深い闇の中へと沈んでいく。
そこに、一瞬だけ人影が見えた。
白いワンピース姿の少女。
その儚げな表情が、何かを伝えようとする。
「イオリ、ありがとう。でも、まだ......」
消えゆく意識の中で、ボクは全身の力を振り絞る。
「きみは......だれ?」
かすかな声が、闇の中で響く。
「私は、マホロ…… マホロだよ」
確かにその名前を耳にした瞬間、意識が強く引っ張られる。
青白い光が視界を埋め尽くし、そして——。
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「にゃ! 無事帰還できて良かったでありますにゃ!」
現実世界に戻ると、ニャビィが飛びついてきた。
「心配で心配で、わらわ、もうお茶を十杯も飲んでしまったのでありますにゃ!」
「ごめんな、ニャビィ。でも、もう大丈夫」
(マホロ......その名前は、どこかで......)
ボクは頭の中でその名を反芻する。けれど、記憶は霞んでいく。
「イオリン、考え事?」
ミレイの声に、意識を現実に引き戻される。
「ううん、なんでもない」
窓の外では、夕陽が沈みかけていた。
そして、その空のどこかで、白銀の光を放つ星光竜が、静かに見守っているのだと、ミレイには分かっていた。
穏やかな夕暮れの光が部屋を包み、例外種との戦いを終えた安堵感が、そこにいる全員を包み込んでいた。
しかし、ボクの心の片隅で、白いワンピースの少女の面影が、まだかすかに揺れていた。
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