第5話 加奈
沙耶から見せてもらったあいつの残したノート。沙耶はあいつの『こころの叫び』だと言ったが、あたしは違うと思う現実逃避する事で自分を守っていたんだ。
〈私〉
今日もまた無事に帰ってきてしまいました。
いつになったら私の願いは叶うのでしょうか。
私は
何がしたいのか
何を求めているのか
生きたいのか
死にたいのか
それすらも私はわかりません
でも一つだけわかることは
いつの日か私の願いが叶うとき
私は満悦した表情で
堕ちてゆくでしょう。
あいつの残したノートをめくるたび、あいつが壊れていくのが手に取るようにわかる。
あいつとは指で数えられる程しか会った事はないけど、初めて会った時から心に闇を抱えていると直感したよ。でもあたしは何も言わなかった、何もしなかった。誰にでも少なからず心に闇を抱えていると思ったから。だけどあいつの心の闇はあたしが思っていた以上に深かった。それにあたしが気付けば良かったんだ。もっとしっかり見ていれば…。
数回しか会っていないからなんて言い訳にすらならない。あいつがあたしに残したモノは重い十字架だ。初めて会った時あいつは微笑みながら言ったんだ。
「ねぇ、神様って本当にいるのかなぁ…?もしいたら加奈は神様になんて言う?私は…何て言おうかな?多過ぎて言葉が出てこないかもしれない。人間
、いざとなったら言いたい事が少しも言えないもんなんだよね」
〈真実〉
『神様なんていないんだね…』
私は、気づきました。信じていたかったけれど
信じたいけど、でも気づいてしまった…
しかし もう遅い…全ては終わったのだから。
私…夢失いそう。消えてしまいそう…
信じていた神様へ 最後の質問をしてもいいですか?
私はまじめではなかったですか?
いつも真剣にしていたのにそれは所詮つもりでしかなかったということですか?
だとしたらあの人達の言う通りにしたほうが良かったのでしょうか?
何が良くて何が悪いのか私はもう分からなくなってしまいました。一つだけわかることは私の真剣は決して他人には分かってもらえず
『ふざけてる』としか見てもらえないこと…。
どうやったら私の真剣さは分かってもらえるのかな? つらいね…
私が今までお願いしていた『願い事』はみんなどこにいっちゃうのかな?
時には気づきたくない真剣ってあるんだね…。
あいつは気付いたんだ、自分の周りには誰も助けてくれる者はいないんだと。温かい手すら差し伸べてくれる者はいない。もしあの時沙耶やあたしが手を差し伸べてあげられていたら、あいつは今も生きていただろうか?
自問自答を何度繰り返したか分からない。後悔したってもう遅いのは頭では分かっているが、沙耶同様自分を責めるしかあたしには出来ない。
あいつの残したノートをめくっていくたび、あたしの中であいつの存在が大きくなっていく。あたしもあいつを見捨てた一人なのだと思い知らされる。
〈私に翼があったなら〉
私に翼があったなら
全てを捨てて、旅に出よう
想いもすべて捨て去ろう。
私の心はもうここにはないのだから
青い空を見上げるたび、自分も鳥なのだと考える。
両手を広げ、一歩踏み出せば私の願いは叶う
光と闇のはざまで蹲り
涙を流す私はいなくなる
そうすれば生と死で揺れている私は
再び夢が見れるのでしょうか?
そうすれば私はここから解放されるのでしょうか?
私に翼があったなら
昔 無くした小さな小さな夢の箱を探しに行こう
そして私の心を取り戻そう
私に翼があったなら
二度とここには戻らないだろう
私に翼があったなら…
私に翼があったなら…
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