第12話 双子姉妹と市民プール
夏休み初日。
私は全力で衣装ケースの中を捜索していた。
ない! ない! ない! 水着がない! 中三の頃に買った水着がどこにもない! このままだと学校指定の水着でプールに行くことになっちゃうよ。
「まだ?」
「ちょっと待ってよ! このままだと高校生になったのにスクール水着で遊びにいくことになっちゃうよ!」
「それでいいじゃん。めんどくさい」
「そういうホタルは水着はどうしたの!?」
「私はちゃんと昨日のうちに用意したもん」
後ろでホタルが私のことを待っている、そして煽っている。
こういうときに限ってホタルの方が用意がいい!
だって水着なんてすぐに見つかると思ったんだもん!
昨日はすぐに用意できると思ったんだもん!
「大体、あんた去年のサイズの水着入るの?」
「
「はぁ? どこが
「また太ったとか言う気でしょう。私、知ってるんだからね」
「違くて胸――」
ホタルがなにかを言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。
めちゃくちゃ気になる。開示請求でもだしてやろうか、こら。
「やっぱりない! 可愛い水着があったのに!」
「ほら、もう行くよ」
「うわぁあああああん!」
ホタルに襟をつかまれて、そのまま連行される私なのであった。
◇
空を見ると、わたあめみたいな雲が飛んでいる。
今日も灼熱のいい天気だ。
「ふぃ~」
浮き輪の上で流れるプールに身を任せること数分。
私は全力で久々のプールを堪能していた。
極楽、極楽。
でも、わたあめみたいな雲を見ていたらお腹が空いてきた。ここにトロピカルなジュースがあれば完璧なんだけどなぁ。
……飲んだことないけど。
「温泉みたいな入り方して……」
「あっ、ホタル」
私たちが来たところは近くにある市民プール。
近くの小学生や中学生なども来る地元民ご用達のところだ。
25m、50m、流れるプール、子供が喜ぶような滑り台などもあり、市民プールといえどかなり本格的に遊べるプールだ。
(あははは! お姉ちゃんやめてよぉ~!)
ほんのり昔のことを思い出してしまった。
子供の頃はよくここにホタルと遊びに来てたっけ……。皮膚がふやけるくらい遊んで、帰りは近くのちょっとおしゃれなパン屋さんで腹ごしらえしてたんだっけか。
(もぐもぐ。お姉ちゃん~、このメロンパン美味しいよぉ~。あっ、お姉ちゃんのパンも美味しそう! 私にも食べさせて!)
あの頃のホタルはとても明るくてすぐに感情を出すような子だった。それが今やプールの塩素の匂いがするような子になってしまった。
「うー! 冷たくて気持ちいい!」
ホタルがプールに飛び込んだ。髪を水で濡らしながらとても気持ち良そうな顔をしている。
「……ホタルさぁ、ちょっとズルくない?」
「なにがよ」
「水着」
ホタルの水着は黄緑色と白色のビキニ。
体のラインがあまり目立たないフリフリタイプだ。
一方の私、紺色のスクール水着。
これじゃ月とすっぽん、提灯に釣り鐘だよ。
一緒に遊びにきているのにこれじゃ私の異常さが目立つじゃんか。
「そんな可愛い水着を持ってたなんて……」
「可愛い?」
「うん」
「あははは! あんたの水着は可愛くないもんね」
「うるさいなぁ! あんたも同じやつ持ってるでしょうが!」
ホタルが笑っている……。
プールの解放感からかいつもより表情が晴れやかな気がする。
くそぅ、次は絶対に私も可愛い水着を着てやる。
「で、あんたはなにやってるの?」
「流れるプールを遊泳中」
「泳いでないでしょうが」
私、あんまり泳ぐの得意じゃないんだよなぁ。水で遊ぶのは好きなんだけど。
「よいしょっと!」
「ごふぁああ!」
私のお布団(浮き輪)が強奪された!
落とし穴に落ちたみたいに水中に沈んでしまった。
「あははははは!」
「ホタルーーー!」
「浮き輪借りてくね~」
ホタルが浮き輪を使って流されていく!
私の極楽タイムが仲悪妹に奪われた!
「はぁ……」
追いかける気にならない。というか絶対に追いつかない。
ぷかぷか浮かぶのってとても気持ち良かったのに……。
「あっ、ごめん」
「いたぁあああ!」
ホタルが一周して戻ってくると、わざわざ人に体当たり攻撃をしてきやがった。
「絶対にわざとでしょう!」
「ちんたらしてるほうが悪いじゃん」
「流れるプールは水の流れを楽しむところなの! 水と同化するところなの!」
「なにそれ」
ホタルが目尻を下げて笑っている。こいつのこんなに機嫌のいいところ久しぶりに見たかもしれない。
「浮き輪返せ!」
「やーだよ」
そう言ってホタルがまた流されていってしまった。むぅ~、こうなったら絶対に浮き輪を取り返してやる!
「あっ、ごめん」
「痛い!」
ホタルが高速で一周してまた体当たりしてきた。
「ホタルーーー!」
「ごめん、ごめん」
「どこの当たり屋よ! うりゃ!」
「わぷっ」
今度は私がホタルから浮き輪を強奪した!
ホタルが勢いよく浮き輪から落っこちていく。
「あはははは! びしょびしょホタルだ!」
「水に入ってるんだから当たり前でしょうが!」
「いいじゃん! 似合ってるよ!」
「うるさいなぁ! いつまで経っても子供っぽいんだから!」
お腹が痛くなるくらい笑ってしまった。
――午前中、私たちはずっとこんなやり取りをしてプールで遊んでいた。
◇
「あー、楽しかった」
ホタルと肩を並べて道を歩く。
片手には売店で買ったラムネを持っている。
「私、久しぶりにこんなに遊んだかも」
「ホタルはいつもムスっとしてるもんね」
「やかましい」
プールの帰りに、私たちは例のパン屋さんに寄ることにした。思いっきり遊び過ぎてお腹がぺこぺこだ。
「はぁ、でもどうせなら可愛い水着着たかったなぁ」
「また来ればいいじゃん」
「え?」
「また来ればいいだけでしょ」
ホタルが私から目線を逸らしてそんなことを言ってきた。
「また一緒に来てくれるってこと!?」
「そ、そこまでは言ってないじゃん……」
「じゃあさ今度は一緒に水着も買いに行こうよ!」
「だからそこまでは言って――」
「ううん! 絶対行こ! 約束だからね!」
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