お姉ちゃんの羽

@mtmynnk

お姉ちゃんの羽

「お姉ちゃんには羽が生えるの。羽が生えれば約束の地に行けるのよ。神様からの命令なの」

姉が突然そう言い始めたのは10日前だった。


両親も私も、最初は冗談だと思っていた。

しかし姉は毎日毎日同じ事を言う。

「お姉ちゃんには羽が生えるの。羽が生えれば約束の地に行けるのよ。神様からの命令なの」

約束の地には神様が居て、ずっと幸せに暮らせるそうだ。死という概念はないらしい。


両親が姉を精神科に連れて行こうと話している。

私もそうした方が良いと思う。姉は何かのストレスで、きっと一時的におかしくなってしまったのだ。優しい姉のことだから、学校の人間関係などに疲れてしまったのかもしれない。病院で診て貰い、少し休めば元の姉に戻るだろう。


今日、姉が家に居ないと最初に気付いたのは母だった。

姉の部屋に書き置きが残されていた。

『お姉ちゃんには羽が生えました。神様からの命令で約束の地へ行きます。お姉ちゃんは幸せになります。みんな元気でね。』

母は顔を真っ青にして警察に電話している。

父と私は、それぞれ駅前と近所とに手分けして姉を探しに出た。

近所の小学校の屋上に人影が見えた。まさか……。

日曜の小学校に、屋上にどうやって侵入したのか。何故か人影ははっきりとは見えない。

姉の声がした。

「神様ありがとうございます!私は幸せになります!みんな元気でね!」

ガンッ!!

屋上の柵が、したたか蹴り上げられたような音を立てた。

私は思わず顔を背けた。

こわい、こわい。とてもこわい。


どうして姉は変わってしまったのだろう。

勉強が得意な姉、読書好きの姉、幼い頃に物語を書いては私に読み聞かせてくれた姉。

姉は無口だけど優しかった。

どうして変わってしまったのかわからない。

どうすれば良かったの?何が悪かったの?


人が落ちた音はしない。

でも、羽の音だってしない・・・・・・・・・のだ。


今は姉を見るのが、こわい。

それ・・を見るのが、私はこわい。

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