とらとら
@nemotoyeah
第1話 トラ転
冬の朝の荷下ろしを終え、俺は空のトラックを走らせていた。別の場所で荷を積みまた運ぶ。これを日課として生活している。信号は青。人生は常に青信号とはいかなかったが、なんとなく生きている。前方にも後方にも車もなく、二輪車もない。何もなかった。交差点を左折する。
突然体が前に倒れた。視界が暗くなる。操作不能。必死にブレーキを踏むも止まらない。一瞬のふわりとした後に、体中に鈍い衝撃がはしる。呼吸もままならない。俺は意識を失った。
この時の俺は陥没してできた道路の大穴に気づかず、トラックごと穴に落ちてしまっていた。このことで異世界転生のトリガーである「トラ転」を引いてしまったようだ。
こうして俺はこの現代日本から強制的に離され、別の世界に転生した。
気づくとそこは豪華な部屋のベッドの上であった。天井が異様に高く複雑怪奇な模様に吸い込まれそうになる。ゆっくりと体を起こす。痛みも違和感もない。ベッド脇の白のスリッパをはきホテルの一室のような広い部屋を見渡す。壁のカレンダーは2021年のjanuaryとある。デスクのうえにある新聞の日付を見ると20日となっていた。新聞の文字は全て異言語であって数字以外は理解できなかった。新聞の一面の写真には白髪の巨漢の男が写っていて何かしら吠え叫んでいる様子だった。新聞脇の白い電話が鳴った。受話器をとる。
「おはようございますトランプ大統領閣下。あなたを閣下とお呼びできる最後の日の朝を迎えてしまいました。ご機嫌はいかがですか?」
俺は強烈なめまいに襲われ立っていられなくなった。受話器を強く握ったまま黒いフカフカのチェアにドスンと座り込んだ。新聞の写真の人物はトランプ大統領、つまり自分なのだ。俺はトラックで転落したらトランプ大統領に転生していた…
とらとら @nemotoyeah
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