第20話

和未はこれまで自分で髪を切っていた。肌の手入れも化粧もしたことはなかった。それらをやってもらって、どきどきした。初めての化粧は肌に膜ができたようで落ち着かなかった。


 迎えに来た晴仁は、和未を見て微笑んだ。


「いいじゃないか。綺麗だ」

 和未はカーッと顔を赤くした。


「ありがとうございます」

「そのほうがいい」

 そう言う彼の目は優しくて、胸が高鳴る。


「謝るより、礼を言ってくれ」

「はい」

 和未はどきどきと返事をした。


 次に下着フロアに連れられ、女性店員にあずけられた。

 晴仁は化粧品や服やバッグや靴、アクセサリーも買ってくれた。それらは全部宅配で届けられることになった。


 携帯ショップに行き、スマホを買い与えられた。

 初めてのスマホに悪戦苦闘した。


「すぐ慣れるだろうが……最初はこっちからも操作できるようにもしておく」

 晴仁は和未のスマホに遠隔操作できるアプリを入れた。迷子になったときのために、追跡アプリも入れた。


「困ったら言え。教えてやれないときは代わりに操作してやる」

「ありがとうございます」


 その後、スマホケースを選べと言われて戸惑った。自分のためになにかを選ぶなんて長いことしなかったから。

 ケースがずらりと並ぶ前で立ち尽くしていると、晴仁が聞いて来た。


「好きな色は?」

「緑とか青とか……」


「好きな動物は?」

「猫です」


 それを手掛かりに、晴仁はパステルグリーンに猫の柄のケースを買ってくれた。スマホにはめてから和未に渡す。


「ありがとうございます。でも、どうしてここまでしてくれるんですか?」

 晴仁はふっと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る