第21話
「うまいメシの礼だ。これからも頼む」
「……はい!」
初めて、母以外の誰かに認められた。
和未はうれしくてたまらなかった。
晴仁はティールームに和未を連れて行った。
ヨーロッパのアンティーク調で整えられていて、華やかながら落ち着いた雰囲気があった。
夢みたいな日だ、と和未はうっとりした。
晴仁に連れ出されてから、毎日が幸せだ。
殴られないし、罵られない。倒れたら病院に連れて行ってもらえて、ごはんも食べさせてもらえる。家事をしたら礼を言われて、料理をおいしいと言ってもらえる。
それだけでも幸せなのに、身なりを整えてもらえて、いろいろ買ってくれて、そのうえ、こんな素敵なお店でおいしそうなケーキセットまで。
運ばれた背の高いケーキを夢見心地で眺める。茶器は白地に金の縁取りがあって上品だった。
それからハッとした。
こういうときはスマホで写真を撮るんじゃなかっただろうか。
慌ててスマホを出して、カメラを起動する。
ケーキを写真に収め、それからも恍惚と眺めた。白いクリームに包まれ、断面にはカラフルなフルーツが見えている。天辺に乗っているイチゴは赤くつやつやとしていた。
視線に気が付いて顔を上げると、晴仁が微笑して自分を見ていた。
「す、すみません、なにか……」
「うれしそうだな、と思って」
なんだか恥ずかしくなってうつむいた。
「すみません、本当にうれしくて……」
「眺めるのもいいが、ケーキは食べるものだぞ?」
「は、はい。いただきます」
和未はおずおずとフォークを刺した。
食べると、甘くて濃厚なクリームが口の中いっぱいに広がった。生地はふんわりとほどけるようだ。
紅茶を飲むと、ほのかな渋みがケーキの甘さを流して口をさっぱりさせてくれた。
「おいしいです」
「それはよかった」
コーヒーを飲み、彼は答えた。
なんて幸せなんだろう。
和未は幸せを少しでも長引かせたくて、ゆっくりとケーキを頬張った。
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