2-3 君は介添人を知っているか
早朝のファミレスは白々さと
店内には俺たちの他に、
「お待たせしましたぁ!」
俺と千倉は窓際のテーブル席に向かい合って座っていた。
そこへ無闇に元気な
「ごゆっくりどうぞぉ!」
女給は去っていったが、俺は警戒心が解けず、なかなか食事に手が伸ばせずにいた。窓の外には千倉の電動バイクが駐車されていて、シートの上にはあの黒猫が座っており、紅い
俺たちはそれぞれのメイガス・フォンをテーブルの上に置いており、とりあえずの休戦状態ではあるのだが――。
千倉はポケットからピルケースを取り出すと、白い大粒の
何喰ってんだ、こいつ?
「ラムネ菓子よ。魔力の補給に丁度いいの。脳の栄養素はブドウ糖だけだから。あなたも食べる?」
「何だ、菓子か――ああ、いや、遠慮する」
俺は気まずさを誤魔化すように珈琲に口をつけた。熱い液体が喉の奥に流れていくが、味も香りも全然感じなかった。
「ところで――」と、俺が話を切り出そうとすると、
「――さっきのお礼をいっておくわ、一応ね。あんな大勢に囲まれて一度に襲い掛かってこられたら、流石の私も危なかったと思うから。どうも、ありがとう」
機先を制するように、千倉は軽く頭を下げた。
ふむ。まんざら話が通じない相手でもないらしい。
少なくとも礼儀を
「頭を下げられるほどのことはしていない。メフィストもいっていたが、あの魚人どもは俺たち二人を襲ったんだ。狙いはもちろん、この魔道書」
「あら、そうだったの?」と千倉が紅いスマホに向かって尋ねると、艶やかな女声であちらのメフィストが肯定する。
「はい、茜音様。かの〈
その色気ある声音に、俺も女性ボイスを選択すべきだったかと一瞬思ったが、同じ音声があちこちから聞こえたら、ややこしくて仕方がないだろうと思い直した。
「だから『メイガス・ゲームは非参加者から秘匿されなければならない』んだそうだ」
「へぇ、そうなの」
「『そうなの?』じゃねぇよ。ルールを読んないのか」
「見てないわね。会話機能があるんだから、その都度メフィストに聞けば十分じゃないの」
「
全幅の信頼を寄せられた女メフィストは「全力でサポートいたします」と殊勝な口ぶりである。
うん? こちらのメフィストと、ずいぶん性格が違ってないか?
「まぁ、いいさ。ゲームに参加している以上、俺たちは敵同士なわけだが、提案したいことがある。聞いてもらえないか」
「聞くだけならね。賛同できるかは保障できないけど」
「それでいい。本題に入る前にいくつか確認しておきたいことがあるんだが――どの程度ゲームについて理解している?」
「メイガス・フォンで決闘。勝った方が魔道書ゲット。全部集めれば願いが叶う」
簡潔な表現だが、間違ってはいない。だが、詳細ルールを把握している俺には付け加えるべき項目がいくつもあった。
「概ねそのとおりだが、
それは俺がメイガス・ゲームの詳細ルールをメフィストに読み上げさせて得た知識である。つまり――、
1、魔術師同士の一対一の対戦にて勝敗を決する。
2、ゲームは一方が継続不能と判断されるまで続けられる。
3、勝者は敗者が所持する〈魔道書〉をすべて奪うことができる。
4、すべての〈魔道書〉を揃えた者が最終的なゲーム勝利者となる。
5、すべての〈魔道書〉が揃った時、ただちに大秘術が執行される。
6、魔術師は一名の〈
7、〈介添人〉に〈魔道書〉の所有資格はなく、その生死は勝敗に影響しない。
8、魔術師は自らのロッジ、テンプル等の拠点を築くことができる。
9、ゲームの存在は非参加者から厳に秘匿されなければならない。
10、度重なるルール違反に際しては、〈管理者〉から制裁が与えらえる。
――となる。俺が手短にルール説明を終えると、千倉は少し感心したように「なるほど」と答えた。
これらの他にも、生命保険の
「今所持している魔道書は幾つだ?」
千倉は右手の指を二本立てながら「二冊」といった。ということは、すでに敵対魔術師を一人倒しているということであり、所持数は俺と同じ。対等な条件であるわけだ。
「丁度良い。なら、さっき話した〈介添人〉を、お互いに適用しないか?」
「えッ――そんなことってできるの? ルールでは〈使い魔〉以外の、人の従者みたいな存在のことだと思うけれど」
「そうだな。身の回りの世話をさせる使用人とか、物理的な脅威から身を守ったりする用心棒を想定してると思う。だから魔道書の所有権はないし、その生死も勝敗に影響しない。つまり生きてる道具みたいな扱いだ。法律上、『ペットは飼い主の所有物とみなす』というニュアンスに近い」
「ふうん。詳しいのね」
「これでも一応、法学部所属なんでね。通常、魔術師同士が協定を結ぶのは稀なはず。何せ魔術師の
「――そういうことに、なるのかしら?」
千倉が厄介そうな相手というのは、先入観であったかもしれない。少なくとも交渉によっては妥協点を見いだせそうだ。
「魔術師同士がお互いの〈介添人〉となることには、多大な
「もし破ったら恐ろしいことになりそうね。でも、最終的に勝者は一人なわけでしょう。あなたの望みが何かしらないけれど――私は譲るつもりはないわよ」
「もちろんだ。二人だけになった時点で契約を解除しても良いし――何なら俺は勝利を譲っても良いと思っている」
「どういうこと!? あなた自分の命を懸けても叶えたい〝渇望〟があるから参加したんじゃないの?」
「俺の〝渇望〟なんてささやかなモンさ。借金の帳消しだからな。お前の願いを叶えるついでに、余禄で叶えてもらっても良い。さて、どうだろう俺からの提案は」
「うん。確かに悪い話ではなさそうね――」
こうして、ようやく協力体制がまとまりかけた時のことだ。
俺たちが向かい合うテーブルに影が落ちた。窓の外を見るとそこには――
なぜお前がここにいるんだ。
上村の手には銀色の
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