04-02:地獄の番犬

「はいっ! 灯さんって女子力高いから、お部屋を見るのが楽しみですっ!」

「……あ。そっちがこっちへ来る感じ?」

「ご迷惑ですか?」

「ううんっ、全然ウェルカム! カモナマイハウスっ!」

「わあ、うれしい!」

「引越しして間もない社宅だから殺風景だけれど、それでもよろしいならば!」


 あー……。

 本当は、蔭山さんの部屋見たかったかな。

 とはいえ、うちに来てくれるのも、それはそれでアリ!


「……おい、灯」

「なんです、先生?」

「Come on a my house」

「は?」

「個々の単語と発音を、ていねいに覚えておけ。ジャパン丸出しの発声は虫唾が走る」

「いまの、今度の試験で出ます?」

「出るわけないだろう。今日日きょうび、小学生の知識だ」

「ですよねー」


 うーむ、高校初の中間試験、英語に力入れておこ。

 顧問に見限られたら、蔭山さんとの部活動ライフに支障生じそう。

 それにしても……。


「……蔭山さん? あたし、そんなに女子力高くないと思うんだけど」

「いえいえ! きれいに整えたパッツン前髪と、くっきりした眉! わたし、いつもうらやましく見てますっ!」

「そ……そうなの?」

「あと……その大きなお目々! メイクじゃなくって自前なんですよねっ? わたし目が小さいから、本当うらやましくて……はいっ!」


 確かにあたし、眉上パッツンにこだわりあって注力してる。

 前髪のインパクト高めるために、眉毛はちょい太めでこまめにケア。

 だけれど……。

 そこ以外全部っ、蔭山さんが女子力高いからっ!

 繊細な髪質、細い首と腕と指と脚、色白、薄くてツヤツヤの唇っ!

 欲しいっ!

 譲ってもらえるのならば欲しいっ!

 あと、あたしの目が大きく見えるのは、いつも蔭山さんをガン見してるからだと思いますっ!

 以上っ!


 ──がるるるるぅ……!


 ……んん?

 なに、いまの唐突な、低いハウリング。

 まさか……部長さんの呻き声?


「……利賀先生っ! わたしもう我慢できませんっ! 雨合羽あまがっぱでランニングさせてくださいっ! このままだと心の中のワンコが……ケルベロスになってしまいますっ!」


 部長さんがイレギュラーな早口。

 それからわたわたと、小さく折り畳んでいた雨合羽を広げる──。

 犬種で言えば、もふもふでむっちりで、子どもとのじゃれあい大好きなレオンベルガー系部長さんがいま、地獄の番犬になろうとしてるっ!


「……ケルベロスはまずいな。おい、灯、蔭山。仁科を止めるぞ」

「「は……はいっ!」」


 3人がかりで部長さんを背後から取り押さえ、大粒の雨が滴る校庭への飛び出しを阻止──。

 こ……このトレッキング部。

 インドア活動でも、かなりハードっ!

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