04-03:上限1万円(親設定)

 ──部活終わって帰りの電車。

 吊り革掴まって眺める車窓も、そろそろ見慣れた感じ。

 山から見下ろした経験が、関心薄かった街並みへ興味持たせてくれてる。

 それはさておき、ああ……早く家に着かないかな。

 さっそく部屋の模様替えしたいし、見られたらアレなもの、もういまから隠したい。

 蔭山さんが重リピートしたくなるKAWAIIカワイイ部屋へ仕上げなくっちゃ。

 うち社宅だから、壁紙やポスターには会社がうるさい……って、お父さん言ってたっけ。

 あとで詳しく聞いとこ。

 えーと、とりあえずあたしの部屋の家具と言えば、勉強机、ベッド、ラック、本棚くらいかぁ……。

 ……………………。

 ……………………。

 …………あ、テーブルないっ!

 肝心かなめの、二人で向かい合って勉強するテーブルがっ!

 これまで友達呼んだことなかったゆえの落とし穴!

 ダイニングテーブル部屋に持ってくる……いやいやいや、ダサすぎっ!

 じゃあ床かベッドで、寝そべりぬいぐるみスタイルでお勉強……。

 それはちょっとやってみたいけれど、姿勢的にもシチュエーション的にも勉強に身が入らないし、提案した時点で蔭山さん帰っちゃうな、きっと。

 ああああ……まさかこんな罠が、自分の部屋に潜んでいようとは……。

 …………はっ!?


「……そう言えば確かっ!」


 この先に……ニトリ!

 うん、毎日電車の窓から、お値段以上な緑色の看板見てるっ!

 その最寄り駅で降りて、二人用のテーブルと、お揃いのクッション買う!

 最近雨続きでショッピング行けてないから、スマホ決済の上限額まで余裕あるっ!

 買える……いけるっ!

 テーブル抱えて帰るのがキツいけれど、それは致し方なしっ!


「……おい、灯」

「あん?」


 この頭上から降ってくる、耳障りな低音イケボ。

 まさか……美樹下か?

 左手を、ちらっ……。


「うげぇ……やっぱり美樹下」

「うげぇ……とは、ずいぶんだな」


 いつの間にか、隣に美樹下立ってた。

 同じ学校の制服で、並んで吊り革に掴まる……。

 周りから恋人同士に見られてたらヤだなぁ、おい。


「……そう言えばあんたも、電車通学だっけか。車内で会うの初めてね」

「何度も乗り合わせてるぞ。おまえが気づいてないだけだ」

「あ、じゃあ。以後はこれまでどおり、あたしを見掛けても完全スルーでオネシャス!」

「いまもそのつもりだったが。おまえがクネクネ悶えてるから、具合が悪いのかと思って」

「美樹下、女性がクネクネしてるの問題視するタイプ?」

「……なんの話だ?」

「いやなんでも」


 蔭山さんを部屋へ招くこと考えてるうちに、身悶えしちゃってたか。

 いかんいかん、痴漢につけ入られる隙を作っちゃう。

 現に、美樹下みたいなデカの接近気づけなかったし。

 ……にしてもこいつ、ホント背高いな。

 ガタイがいい。

 たぶん力持ち。

 ならば荷物持ち向き。

 んんっ、閃いたっ!


「ねえ、あのさぁ……美樹下?」

「どうした。裏声で」

「あたしこれから、ちょっと重めの買い物するんだけどぉ……。もしよかったら、家まで運ぶのぉ……手伝ってもらえないかなぁ。なーんて♪」

「……おまえの自宅を知ることになるが、いいのか?」

「あ、やっぱいまの話キャンセルでオネシャス」

「やっぱり灯って変だぞ……。変だと言えば、蔭山は──」


 ──キキキキーッ!


 車輪と線路が擦れる音して、電車が停まる。

 駅に到着。


「……ん、俺はここで降りる。じゃあな」

「おい美樹下、蔭山さんがなにっ!?」

「……………………」


 うぐぐ……あいつ無視して降りやがった!

 なになにっ、美樹下って蔭山さん気にしてるわけっ!?

 そう言えば蔭山さんも、美樹下相手に頬染めてたし……。

 んんんんんー……許るさーん!!

 あたしと蔭山さんの仲を邪魔しおって!!

 こうなったらニトリで、おしゃれな壁紙とテーブルクロス買って、部屋を勝負モードにしちゃう!

 お父さんの会社の都合?

 知るかそんなもんっ!


「…………あっ」


 車窓の向こうで流れていってる、緑色の看板。

 えっと……もしかして。

 いまのがニトリの最寄り駅、だった?

 「いまのがニトリの最寄り駅」って語感いいけれど、あたしにとっては最悪な状況ーっ!

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