第4話 蔭山さんがうちへ来ちゃった!

04-01:心の中のワンコ

 ──梅雨。

 梅雨ったら梅雨。

 本格的な梅雨入り、毎日雨ザーザー。

 トレッキング部の活動から、ランニングが免除。

 それはまぁ楽かな……と、思ったけれど。

 こうして部室で毎日2時間、郷土史のお勉強は正直ツラい。

 せっかくランニングで息切れしない体作れてきた……っていうのもあるし。

 そして地味にキツいのが、部長さんのすさみ具合。


「はうううぅ~! 歩きた~い! 走りた~い! 登りた~い!」


 パイプいすに座ったままで、手足を小さくジタバタ。

 おっとりしてて、年長者の貫禄と母性に満ちていた部長さんが、いまやほぼほぼ駄々っ子……。


……(小声)蔭山さん。部長さん、そろそろ限界じゃ?」

「ですね……。毎日最低3万歩は歩いてるって、言ってましたから。ランニングと今週末のトレッキング中止が、相当こたえてるみたいです」

「皇居ランナーが、走れない日が続くと禁断症状出る……的な?」

「ですです。仁科さん前に言ってたんですけど、心の中に『散歩へ行きたがるワンコ』を飼ってるそうで」

「そのワンコが日々、巨体化してるのかぁ。梅雨入りのころはミニチュアダックスだったのが、いよいよグレート・ピレニーズに……」

「週末にはボルゾイになっちゃいそうですね……」


 おっ、蔭山さんも犬種詳しそう。

 さておきこれ、部存続の危機では?

 トレッキング部、部長さんの人徳と知識とバイタリティーで成り立ってるから。

 顧問という名目で英語教科の作業してる、利賀先生の見解は?


「……先生。部長さんがメンタル面で追い詰められてますけど。フォローしなくていいです?」

「そうだな……。アイリッシュ・ウルフハウンドになったら考える」

「おお、先生も犬に詳しい」

「ところで灯。中間試験の勉強、しっかりしているか? クラスと部活、ダブルで受け持ちの生徒なんだから、情けない点は取るなよ?」

「ええ、それはもちろん。絶賛対策中です」


 ちらっ、ちらっ──。


「……おい、作成中の問題覗き見するな。それは対策じゃなくて不正だ」

「顧問の仕事中に試験問題作るのは、不正じゃないんですかね……」


 ……ま、いいか。

 試験勉強は人並みにやってる。

 けれどたまには、蔭山さんとスタバでお勉強デートなんてしてみたい……かな。

 いまの会話の流れに乗って、それとなく誘っちゃお──。


「ねえ蔭山さん。今週トレッキングないし、二人で試験勉強しない?」

「えっ、おうちでですか? はい、構いませんよ」

「いや、スタ…………そうそう、おうち! おうちでスタディー!」


 ふおおおぉ……ギリのセーフ!

 「バ」まで発声してたら、千載一遇のチャンス台無しにするところだったぁ!

 おうち!

 おうちで二人っきり!

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