酸素ちゃんはフッ素に勝てない
木結
電気陰性度
「ふんふ~ん」
「今日はなにしよっかなー」
普段は
いきなり自由になるとそれはそれでやることに迷う。
「うーん、今しかできないこと……無声放電(3O₂→2O₃)とか?」
だが今は酸化力がほしい気分ではないし、雷雲に電気を分けてもらいに頼みに行くのはおっくうだ。
アニメでも見るか、と酸素は部屋のテレビのリモコンを手に取って、ソファーに座った。
ピンポーン。
「……? 誰だろ?」
見ていたアニメを一時停止して、酸素は玄関に向かった。
のぞき穴から外をのぞく。
「げっ、
のぞき穴の先にいるフッ素は両手にコンビニのレジ袋を提げていた。
酸素はドアを開けると、警戒心もあらわに「……何しに来たんですか」と言った。
「一緒にメシでもと」
「私、今日は久々に単体でまったり過ごす予定だったんですけど」
「ほら! たくさんスイーツ買ってきてやったぞ! 俺一人じゃ食いきれん!」
レジ袋の中には、エクレア、フィナンシェ、シュークリーム……。
「……仕方ないですね」
酸素はフッ素を迎え入れた。
「スイーツパーティ! 乾杯!」
「かんぱい……」
やたらとテンションの高いフッ素のグラスにのろのろと酸素は自分のグラスをぶつけた。
「暇だからって私の家まで来なくても……」
「そりゃあいろんなところで引っ張りだこのお前よりは暇かもしれないけどさ、俺だってちゃんと働いてるんだぜ? 今日来たのは別件だよ、別件」
「……」
「おーいテンション低すぎ! せっかくのパーティなんだからもっとアゲていこうぜ!」
「……私は食品ロスを防止するために仕方なく食べてあげてるだけですから」
「そんなこと言って~、もう5個目じゃん。太るよ? 大丈夫?」
「余計なお世話です!」
けらけら笑うフッ素にイラっとしながら、酸素はジュースで糖分を流し込んだ。
「ていうか別件って何ですか?」
「ああ、お前が調子乗ってないかって心配になってな」
「はい?」
フッ素は酸素に向き直って、
「お前、自分が電子を取る側だからってみんなを散々煽ってるんだって?」
「へ!?」
「お兄様が知らないとでも思ったか? 新米酸素」
「え、いや、何か思い違いがあるんじゃ……」
「みんな言ってたぞ? 盗られた電子を中々返してくれなくて困ってるって」
酸素はフッと笑うフッ素の両肩を掴んだ。
「誤解です」
「証拠もある、と言ったら?」
フッ素は手袋をして、懐からディスクを取り出した。
「な、何ですかこれ!?」
「何ってDVDだよ。今から見ようと思って」
「や、止めてください! 人の家で!」
「おいおい。お兄様に逆らうのか?」
立ち上がってDVDデッキに向かおうとするフッ素の前に立ちはだかり、両肩を掴んで押し返そうとするが、酸素はフッ素に力負けして、
「ああっ!」
ソファーにふわりと投げられてしまった。
「分子量は俺の方がちょっと上だ」
そう言って、フッ素はビデオを再生した。
『あはは! どいつもこいつもざーこ♡ 相手にならないんですけどぉ~』
酸素はテレビの中の自分の姿に赤面した。
「や、やめてください!」
「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?」
ビデオを止めようとした酸素を後ろから羽交い絞めにして、フッ素はニヤニヤ笑っている。
『出ーせ♡、出ーせ♡!
「いつもおしとやかな子分が、こんなクソガキみたいなことしてるのを見るの、ショックだな」
「見ないでぇ! みないでぇ!」
酸素は真っ赤になって、耳を塞いでしまった。
フッ素はニヤニヤしながら酸素を羽交い絞めにしながらソファーに座った。観念した酸素はフッ素の胸に体を預けるようにした。
『いっぱい出せたね♡ この
「
「ち、ちがうんです!
「テルミット反応って? あつあつだねぇ。酸素、ノリノリじゃん」
「うぅー」
『あは! 私から
「
「わ、私、こういうとき、ちょっと興奮しちゃうんです!」
ビデオが終わると、酸素はぐったりしていた。
「みんなから苦情が来てんのさ。いちいちはしゃぎすぎだって」
「ううぅ……」
そりゃあ酸素なんだから酸化するときはアツくもなる。燃えてるのだ。
「私、だめですかぁ?」
「まあ、ちょっとうっとうしいってな」
他の先輩酸素を思い出す。無表情で電子を絞っていく慣れた姿。だが今の酸素は新米酸素。そんなに機械的には出来ないのだ。
「あとさ、これ」
フッ素はリモコンを操作して、ビデオを巻き戻した。
『はぁ!? なんで私が電子1個しかもらえないわけ!?』
『し、仕方ないじゃない。私たち、今日は
「お前、ちゃんと勉強しなかったのか? 酸素は、酸化数を0と-2しかとらないわけじゃないんだぞ?」
「うっ……反省してます」
「この前もそう言ってなかったか? 他の酸素も言ってたぞ? 『改善の兆しが見えない』って」
「……」
酸素は涙目だった。
なんでこの休日にお説教を食らわなきゃいけないのだ! しかもよりにもよって
「と、いうわけで」
「……」
フッ素は酸素を解放した。
「罰として今日は俺と『共有結合』で過ごしてもらいます」
「は、はぁ!!?」
酸素は飛び上がった。
「お、お兄様と『共有結合』!? それって愛し合う2元素がやるべきことじゃ……」
「お前はな、やりすぎたんだ。だから、懲罰部隊の俺が出張ることになった」
酸素は部屋の隅に逃げた。
「だ、だからって! ハレンチです!!」
「仕方ないだろ。酸素を懲罰できるのは、俺みたいなフッ素しかいないんだから」
フッ素が一歩近寄ると、酸素の体の震えが大きくなる。
フッ素お兄様はいつでも、「お仕置き」は全力なのだ。
「さあ、いくぞ。さすがにここでするのはかわいそうだ」
酸素はフルフルと首を横に振った。
「お、お兄様、後悔することになりますよ……」
「はっはっは。お兄様をあまり侮るんじゃないぞ。少なくとも酸素よ」
フッ素は獰猛な笑みを浮かべた。
「お前より電気陰性度は上だ」
逃げ出したがあえなくつかまった酸素はベッドに放り投げられた。
「さて、気が進まない仕事だが……始めるか」
「ひ、ひぃっ!」
「あー、酸素、お前初めてだったか? 悪いな」
フッ素は服を脱いでいく。
「だがすぐに、このことしか考えられなくなる」
フッ素がパンツに手をかけ、ゆっくりと降ろしていく。
フッ素の大きな
「で、
「デカンじゃねえよ。
フッ素はパンツと一緒にいつもの優しいお兄様の仮面も脱ぎ捨てたらしい。
中から現れたのは全元素中最強の電気陰性度を誇る
「おいおい、お兄様に脱がせてお前は脱がないのか?」
酸素は覚悟を決めた。
「お、お兄様」
震える声で、宣戦布告する。
「わ、私だって、電気陰性度3.4の強豪です。いつまでも妹分だと馬鹿にされては困ります」
酸素は胸を張って叫んだ。
「お兄様から、逆に
(規制されそうなのでダイジェスト)
「不慣れだなァ、酸素! お前が
「なっ、お兄様が吐き出す側です!」
「ならやってみな」
「当然! ……――くっ!? ガードが、堅い!
「電気陰性度4.0ってのはな、伊達じゃねぇんだよ」
(中略)
「今度は俺の番だ。もういいだろ?」
「い、いや!」
「お前は今まで嫌って言うほど、絞って来ただろうが! 今日俺が、酸化数プラスの世界を見せてやるよ。トぶ程気持ちいいらしいぞ」
「いや、待って―――!」
(中略)
「おっ♡ おッ♡ お兄様っ、そこっ、だめっ♡」
「お? ここがいいのか? この非共有電子対が弱いのか? じゃあもっとぐりぐりしてやるよ! 俺の
「
(中略)
「おいおい、俺から搾り取るんじゃないのか? この雑魚
「おっ♡ おっ♡ お、お兄様のぉっ! か、
「謝れ! お前が今まで馬鹿にして来た人にッ!」
「おっ♡ ごめんなさい♡! 今まで♡ 陽性がつよい金属のことぉ♡ バカにして♡ ごめんなしゃいいいいい♡♡♡」
(中略)
「い、
「さっさと出せッ、オラッ、
(中略)
「
「はやくっ、出せよ!
(中略)
「
「いやっ♡ いやなの♡」
「怖いなら、俺が一緒にいてやるから!」
「こわい♡! こわい♡!
「1molくらい出せ!」
そこで急にフッ素が酸素の耳元に口を寄せて、ねっとりささやいた。
「出せ」
そこで酸素の全てが決壊した。
(反応式)
F + O₂ → FO₂
「こわかったぁぁああ……」
「大丈夫大丈夫、今日は俺がいてやるから」
今日一日は共有結合で
酸素は酸化数プラスの衝撃が抜けていないのか、優しいお兄様に戻ったフッ素に抱き着いている。
「これに懲りたら、メスガキみたいになるのはやめるんだ」
「お、お兄様だって、私に『出せっ、出せっ』って」
「俺はいいのさ。
「ずるい……」
体が動かない酸素の代わりにフッ素が水を取ってきてやる。
「じゃ、今日は酸素のプラスデビュー祝いに、甘いものでも買ってこようかな!」
「さ、さんせー。私、今日もう動けません……多分明日も……」
昨日
絞り絞られ、寝取り寝取られ。
今日も化学界は平和である。
_____________
学校で教わったんです。
「酸素は、フッ素にだけは負けて電子を取られちゃう」って。
そのとき思いました。
なので書きました。
反省してます。
でも、化学の世界が擬人化したらこんなんばっかだと思います(反省してない)
酸素ちゃんはフッ素に勝てない 木結 @kiwomusubeyo
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