『最弱植物の異世界魔術師』 ~女神に命令されプシロフィトンに転生した私は古代の力で世界を巡る~

ソコニ

第1話「最弱古代植物として目覚めて」


第1話「最弱古代植物として目覚めて」


真っ白な空間で目を覚ました時、私の目の前には美しい女性が立っていた。緑の髪が風もないのにゆらめき、全身から柔らかな光を放っている。


「目覚めましたか、月城ユヅキさん」


その声は、まるで木々のささやきのよう。


「私は...死んだの?」


最後の記憶は、大学の生物研究サークルで標本を整理していて、足を滑らせて...。


「はい。でも、あなたにはまだやるべきことがあります」


女神は静かに微笑んだ。


「この世界では、古代から伝わる植物の力が、様々な形で利用されています。中には、その力を理解しようと研究する者もいれば、利用しようとする者も」


女神が手を翳すと、空間に映像が浮かび上がる。魔術師たちが古代植物の痕跡を探し、その力を引き出す様子。


「あなたには、その世界で生きていってほしいのです。最弱の古代植物、プシロフィトンとして」


「え?最弱の...?」


私は戸惑った。せっかく転生できるなら、もっと強い植物の方が。


「強さは、必ずしも正しい答えを導きません。小さな存在だからこそ見える景色があり、得られる知恵があるのです」


女神は優しく続ける。


「まずは、この世界で生き抜くこと。そして、あなたなりの道を見つけること。それが第一の目標です」


「でも、私にできるのでしょうか...」


「この力をお授けします」


女神が私の額に触れると、温かな光が広がった。


「古代生物の記憶を読み取る力です。出会った痕跡から、かつての姿や能力を学ぶことができます。ただし、一度に大きな力を得ることは危険も伴います。慎重に、一歩ずつ成長していってください」


視界が霞み始める。


「きっと、道は開かれます。そして...時が来れば、あなたにしか果たせない使命が見えてくるはず」


女神の最後の言葉が、かすかに響いた。


***


「え...ここは...?」


意識が戻った瞬間、すべてが違和感だらけだった。視界に映る景色が、普段より遥かに大きい。いや、周りが大きくなったのではない。私の体が小さくなったのだ。


「本当に植物になってる...」


パニックになりかけた私は、必死に記憶を手繰り寄せる。そうだ、女神様との出会い。この世界で生き抜くために、最弱の古代植物として転生したのだ。


自分の姿を確認しようとしても、動くことができない。根が地面に張り付いているような感覚。茎らしきものと、小さな葉のような器官がある。高さは数センチメートルといったところだろうか。


「困ったことに、このままじゃ動けない」


考えを巡らせていると、地面が振動するのを感じた。何かが近づいてくる。それも、かなり大きな何かが。


「おや、こんなところにプシロフィトンとは珍しい」


低く落ち着いた声が響く。振動の主は一人の人間だった。黒いローブを着た中年の男性。その手には不思議な形の杖。魔術師だろうか。


「しかも、これは...生きているのか?古代の植物が現存しているとは」


男の言葉に、私は身震いする。女神様の見せた映像を思い出す。古代植物の力を求める者たち。


「研究材料として、貴重な標本になりそうだ」


ヤバイ。このままでは捕まってしまう。でも、動けない。いや、待てよ。植物だって、成長という形で動くことはできるはず。


「根を...動かせないかな...」


必死に意識を集中すると、不思議なことに根が少しずつ土の中を移動し始めた。遅いけど、確実に動いている。


「お、おっと」


男の手が岩の隙間に伸びてきた瞬間、私は根を縮めて、より深い隙間に逃げ込んだ。


「なんと、これは...意思を持っているのか?」


男の声が驚きに満ちている。その隙に、私はさらに奥へと逃げ込んだ。岩の隙間は迷路のように続いていて、人間の手は届かない。


「...逃げられたか。面白い。報告しないといけないな」


足音が遠ざかっていく。どうやら、なんとか逃げ切れたらしい。


「はぁ...危なかった...」


安堵のため息をつきかけた時、新たな発見があった。岩の隙間の壁に、何かが付着している。乾燥して茶色く変色した何かが。


「これって...シダ?なんだか、懐かしい感じがする...」


近づいてみると、不思議な感覚が襲ってきた。まるで、そのシダの痕跡が私に語りかけてくるような...。


「この感覚...女神様の言っていた力ね」


意識を集中してみると、そのシダが持っていた能力が、まるでデータをダウンロードするように流れ込んでくる。水分を効率的に吸収する能力。乾燥に耐える知恵。


「これが私の生きる道...」


茎から新しい組織が生まれ、より効率的に水分を吸収できるようになっていく感覚。これなら、少しは生き延びられるかもしれない。


「一歩ずつ、進んでいくしかない」


私は決意を新たにする。この世界で生きていくため、そしていつか——私にしかできない何かを見つけるため。


まずは安全な場所を見つけ出さないと。あの魔術師が、仲間を連れて戻ってくるかもしれない。


「私、最弱の古代植物・プシロフィトンだけど...」


地面を這うように、少しずつ前に進む。この小さな体で、果たしてどこまで行けるだろうか。


「きっと道は開かれる...」


女神様の言葉を思い出しながら、私は静かに、しかし確実に動き続けた。夕暮れの光が、小さな植物の影を長く伸ばしていた。




第2話「はぐれ魔術師との出会い」


実験場から逃げ出して三日目。私は岩の隙間を這うように進んでいた。


「水が...必要ね」


獲得した能力のおかげで、少ない水分でも何とか生きていけるようになった。でも、このままでは心もとない。安全な場所を見つけ出さないと。


「でも、この体じゃ遠くまで行けないわよね...」


茎の先端を少し持ち上げ、周囲を確認する。相変わらず、見上げるような巨大な岩場が続いている。私の体は数センチメートル。人間だった頃の何百分の一という小ささだ。


ザクッ。


突然、近くで土を掘る音が聞こえた。警戒して身を縮める私の目の前に、一輪の花が投げ込まれる。


「出てきなさい。そこにいるのは分かってるわ」


女性の声だった。若い。でも、どこか力強さがある。


「私にはあなたの魔力が見えるの。珍しい種族ね」


魔力?私にそんなものがあったのか。逃げ出そうにも、この声の主は明らかに私の居場所を把握している。


「ねぇ、話し合いましょう?あなたの能力に興味があるの」


声の主が姿を見せた。薄紫のローブに身を包んだ少女。銀色の長い髪が風に揺れている。年の頃は私と同じくらいだろうか。手には先日見かけたような杖を持っている。


魔術師。でも、あの時の男性とは様子が違う。


「私はマリア。魔術師...まあ、元魔術師かしら」


元?という疑問が浮かぶ中、マリアは私の前にしゃがみ込んだ。


「あなたは意思を持ってるわよね?返事をする方法はあるはず」


確かに。植物だって、成長という形で意思表示はできるはず。私は茎を少し傾けて、頷くような仕草を作ってみた。


「やっぱり!すごく面白い」


マリアの目が輝く。


「ギルドの連中には見つかってないみたいね。良かった」


ギルド?また新しい言葉が出てきた。疑問が浮かぶ中、マリアは続ける。


「私ね、魔術師ギルドを追放されちゃったの。古代生物の研究に没頭しすぎて、禁忌に触れたって」


なるほど。だから「元」魔術師を名乗ったのか。


「あなたはプシロフィトンでしょう?古代の植物が現代に生きているなんて、研究対象として興味深すぎる」


その言葉に、私は身構える。先日の男性も「研究材料」と言っていた。でも、マリアは首を振る。


「捕まえて実験しようってわけじゃないわ。むしろ、協力して欲しいの」


協力?


「ギルドの追っ手が来るの分かってるでしょ?私には隠れる場所を探す手助けが必要。あなたには保護が必要。利害が一致してると思わない?」


確かに、その通りかもしれない。このまま一人では心もとない。かといって、信用していいものだろうか。


考えを巡らせる間もなく、地面が大きく揺れ始めた。


「見つかったみたい」


マリアの表情が険しくなる。遠くから、複数の足音が近づいてくる。


「どう?取引成立?」


即答を迫られる状況に、私は一瞬だけ迷う。でも—


「そこにいたか!」


岩場の向こうから、三人の魔術師が姿を現した。全員が黒いローブを着ている。


「お前の研究は危険すぎる。大人しく捕まれ!」


先頭の魔術師が杖を掲げる。マリアも応戦の構えを取る。


「返事は?」


マリアが小声で問いかける。もう迷っている場合じゃない。私は大きく茎を揺らして頷いた。


「決まりね!」


その瞬間、激しい魔法の応酬が始まった。火の玉が飛び交い、氷の矢が放たれる。マリアは見事な動きで避けながら、反撃の魔法を放つ。


でも、相手は三人。じわじわと追い詰められていく。このままでは—


「あ!」


その時、私は壁に残された別の痕跡を見つけた。乾燥して茶色く変色した何か。近づくと、またあの感覚が...。


「これは...毒を持った古代植物の痕跡!」


記憶が流れ込んでくる。かつてこの場所に生えていた植物は、防衛のために毒を持っていたんだ。


「マリア!目を閉じて!」


意識を集中し、新しく得た能力を発動させる。茎から紫がかった胞子が放出された。


「なっ...何だ、これは!?」


追っ手の魔術師たちが目を押さえて苦しみ始める。


「すごいじゃない!」


マリアが歓声を上げる。そうか、彼女には私の声が聞こえているんだ。


「こうなったら、一気に決めましょう!」


マリアが杖を振りかざす。放たれた魔法が、私の胞子と混ざり合って渦を巻く。


「うおおっ!」


追っ手たちが吹き飛ばされた。見事なコンビネーションだ。


「これは...撤退だ!」


三人は踵を返して逃げ去っていく。


「やったわ!」


マリアが嬉しそうに声を上げる。私も安堵のため息をつく。まさか、こんな形で決着がつくとは。


「ね?私たち、相性いいと思わない?」


確かに。お互いの力を補い合える可能性を感じた。それに、この世界のことを教えてもらえるかもしれない。


「これからよろしく」


私は再び茎を揺らして応える「よろしく」。


「じゃあ、まずは安全な場所を探しましょ。教えたいことも、聞きたいことも、たくさんあるわ」


マリアが優しく微笑む。本当に信用していいのか、まだ若干の不安は残る。でも、今はこれが最善の選択なのは間違いない。


「そうそう、この声が聞こえてるってことは、あなたも魔力を持ってるのよ。面白いわ」


夕暮れの光の中、奇妙な二人の旅が始まろうとしていた。



第3話「遺跡に眠る古代の力」


「ここが闇市場...?」


マリアの手のひらに乗って、私は周囲を見回した。地下洞窟を利用した巨大な空間。無数の屋台や露店が立ち並び、怪しげな商人たちが声を張り上げている。


「ギルドの監視が届かない、魔術師たちの取引場所よ」


マリアの説明に納得する。確かに、堂々と店を開いている魔術師たちの姿が見える。露店には、きらびやかな魔法の道具や、得体の知れない生物の標本なんかが並んでいた。


「あそこが目的の店よ」


マリアが指差す先には、古ぼけた地図や古文書を扱う店がある。


「遺跡の地図を手に入れたいの。古代生物の痕跡が眠る場所を探すため」


なるほど。私の能力のことを研究したいんだ。でも...


「はあ!?こんな値段出せるわけないでしょ!」


マリアが声を上げる。地図の値段を見て驚いたようだ。


「これはね、西方の大遺跡の詳細な地図なんだ。簡単に手に入るもんじゃないよ」


髭面の商人が悪びれもせず答える。


「でも...」


マリアが困り顔で立ち尽くしていると、商人の後ろの棚に積まれた箱が目に入った。薄暗い場所だけど、確かにあれは...。


「ねぇ、マリア。あの箱の中...」


私は小声で伝える。マリアには私の声が聞こえる。


「何かしら?」


「古い植物の痕跡を感じるわ。化石かもしれない」


その瞬間、マリアの目が輝いた。


「あの...すみません。他の商品も見せていただけますか?」


「ん?ああ、いいぞ」


商人が奥に向かう間に、マリアは小声で私に語りかける。


「ユヅキ、あの箱に隠れられる?」


「え?まさか...」


私は驚いて茎を揺らす。でも、マリアは決意に満ちた表情だ。


「他に方法がないわ。地図は絶対に必要なの」


確かに、この世界で生き残るためには、古代植物の痕跡を探し続けなければならない。私も強くなる必要がある。


「...分かったわ」


マリアが商人の注意を引いている間に、私はこっそりと箱の中に潜り込んだ。中には古びた巻物や、砕けた化石のようなものが詰まっている。


「これは...!」


その時、私は箱の中で驚くべきものを見つけた。茶色く変色した小さな塊。間違いなく、古代の胞子の化石だ。


しかし、その発見に気を取られている場合ではなかった。


「おい、お前!」


突然、怒声が響く。


「何をしている!」


商人の声が変わった。さっきまでの愛想の良さは消え失せ、冷たい敵意に満ちている。


「やっぱり、ギルドの密偵か!」


「!?」


マリアの悲鳴が聞こえる。私は必死で状況を把握しようとする。箱の隙間から見える光景に、背筋が凍る。


商人は黒いローブに着替えていた。魔術師ギルドの制服だ。周囲の客たちも次々とローブを羽織る。これは罠!


「観念しろ。もう逃げ場はない」


「そうは行かないわ!」


マリアの声と共に、魔法の閃光が走る。戦いが始まった!


私は迷った。このまま隠れているべきか。でも—


「くっ!」


マリアの苦しむ声が聞こえた。


「今よ!」


私は決断する。箱から飛び出し、先ほどの胞子の化石から必死で記憶を引き出す。


「これを!」


新たな能力が目覚める。刺激性の強い胞子を大量に放出する力!


「なっ...何だこれは!」


密偵たちが目を押さえて苦しみ始める。


「マリア、逃げるわよ!」


「え?ああ...地図!」


混乱に乗じて、マリアが地図を掴み取る。


「こっちよ!」


マリアが走り出す。私は彼女の肩に飛び移り、さらに胞子を撒き散らして追手の視界を奪う。


「やられた...追え!」


後ろから怒声が響くが、もう遅い。私たちは闇市場の迷路のような通路を駆け抜け、出口へと向かっていた。


「すごいわ、ユヅキ!」


走りながらマリアが声を上げる。


「でも、まだ安心はできないわ。この地図が本物なら、ギルドも本気で追ってくるはず」


その通りね。でも—


「私たちには、きっと勝機があるわ」


胞子の化石から得た新しい力。そして、地図が導く先にある古代植物の痕跡。


「ねぇ、マリア。地図に書かれた遺跡には、もっと強い古代植物の痕跡があるのかしら?」


「ええ、きっと。だから、ギルドも必死なのよ」


私たちは暗い通路を駆け抜けていく。追手の足音は次第に遠ざかっていったが、これは始まりに過ぎない。


より大きな冒険が、私たちを待っているのだから。




第4話「魔術師ギルドの罠」


霧に覆われた山道を、マリアは慎重に歩を進めていた。地図には、この先に大きな遺跡があると記されている。


「この霧、自然なものじゃないわ」


マリアの肩で、私は周囲の様子を観察していた。確かに、霧の匂いが妙だ。うっすらと魔力を帯びている。


「誰か...助けて...」


突然、男性の声が聞こえた。霧の向こうから、よろめく人影が見えてくる。


「大丈夫ですか!?」


マリアが駆け寄ると、そこには負傷した魔術師が倒れていた。銀髪に青いローブ。ギルドの制服ではない。


「ギルドに...追われて...」


魔術師は苦しそうに言葉を絞り出す。


「私もギルドの追放者です。お名前は?」


「クロード...と、呼んでください」


彼は脇腹を押さえながら答えた。傷は浅くはなさそうだ。


「手当てしましょう」


マリアが治癒魔法を唱える中、私はどこか違和感を覚えていた。傷の様子が...不自然?


「ありがとうございます。お二人は...」


クロードは私たちを見つめる。その瞬間、私は違和感の正体に気づいた。彼の目が、一瞬だけ鋭く光ったような。


「遺跡を目指しているんですか?」


「ええ、そうですけど...」


マリアが答えようとした時、私は小声で警告した。


「マリア、この人...」


だが、遅かった。


「甘いな、お嬢さん」


クロードの声が一変する。魔力が渦を巻き、霧が私たちを取り囲んだ。


「罠!?」


マリアが剣を抜くが、もう周囲は真っ白な霧に包まれている。


「ギルドの上級魔術師、クロードだ。観念して捕まえてもらおうか」


「そんな...!」


マリアは私を守るように身構える。だが、霧の中からは次々と魔術師たちが姿を現した。五人、いや、それ以上か。


「お前の研究は危険すぎる。古代生物の力は、制御できないものなんだよ」


クロードの言葉に、マリアは反論する。


「古代生物の研究は、新たな魔術の可能性を開くはず!どうして分からないの!」


「若いねぇ。そう思って破滅した魔術師を、私は何人も見てきた」


クロードの手から、氷の矢が放たれる。マリアは咄嗟に防御魔法を展開したが、衝撃で後ろに吹き飛ばされた。


「くっ...」


「無駄だ。霧の中では、魔力が干渉される」


そうか、だから治癒魔法が効きにくかったんだ。計算されつくした罠。


私は必死で考える。このままでは...。


「あっ!」


その時、壁に何かが目に入った。苔のような痕跡。近づくと、またあの感覚が。


(これは...硬化能力!?)


躊躇している暇はない。私は即座に記憶を取り込む。


「マリア、目を閉じて!」


「え?」


私は新しい能力を発動させた。体から緑色の粉末状の胞子が放出される。それは霧と混ざり合い、急速に固まっていく。


「なっ...何だ!?」


クロードが驚きの声を上げる。霧が結晶化して、固い壁となって敵を閉じ込めていく。


「こっち!」


マリアは即座に理解し、私を抱えて走り出した。


「追うな!霧を...この妙な結晶を溶かせ!」


後ろでクロードが叫ぶ声が聞こえる。でも、もう遅い。


「すごいわ、ユヅキ!」


走りながら、マリアが声を上げる。


「でも...あの人の言葉が気になる」


確かに。古代生物の力の危険性。破滅した魔術師たち。


「大丈夫よ。私たちは違う」


そう言うマリアの声には、迷いが混じっていた。


「...ユヅキ、あの時のこと、覚えてる?」


「あの時?」


「ええ。ギルドを追放された日のこと」


マリアの足が止まる。遠くまで逃げてきたようだ。


「私ね、古代生物の研究に没頭しすぎて、大切なものを見失っていた。仲間を...信頼を...」


初めて聞く、マリアの本音。


「でも、あなたは違う。あなたと出会って、私は気づいたの。研究は手段であって、目的じゃないって」


「マリア...」


「だから、心配しないで。私たちは、正しい道を進んでるわ」


マリアは微笑む。だけど、私の胸には不安が残っていた。


このまま進んで、本当に大丈夫なのか。古代生物の力は、本当に制御できるのか。


答えは、きっとこの先にある。



第5話「遺跡都市での決戦」


遺跡都市の入り口は、予想以上に巨大だった。


「これが...古代文明の技術」


マリアが感嘆の声を上げる。石造りの巨大な門には、不思議な文様が刻まれている。その模様が微かに光を放ち、古の魔力を纏っているのが分かる。


「ユヅキ、何か感じる?」


「ええ...とてつもない量の古代植物の気配よ」


私は茎を震わせながら答えた。遺跡のあちこちから、かつての植物たちの記憶が呼びかけてくる。


「でも...なんだか様子が変。まるで...警告してるみたい」


その時、遠くで爆発音が響いた。


「来てたのね」


マリアの表情が引き締まる。遺跡の中では、すでに何者かが戦いを始めているようだ。


「行きましょう」


石の回廊を進んでいくと、戦いの痕跡が生々しく残されていた。壁には魔法の焦げ跡。床には氷の欠片。


「ギルドの連中と、他の魔術師たちが入り乱れて戦ってるみたいね」


そう話すマリアの声に、緊張が混じる。


突然、前方から人影が現れた。


「やあ、お嬢さん」


「クロード...!」


先日の罠を仕掛けた魔術師だ。今回は一人ではない。後ろには数人の魔術師が控えている。


「もう逃げ場はないよ。おとなしく捕まえてもらおうか」


「そうはいきません!」


マリアが杖を構える。だが、クロードは余裕の表情だ。


「君の目的は分かっている。遺跡の中心にある古代植物の痕跡...化石を狙ってるんだろう?」


「!」


「でもね、あれは触れてはいけないものなんだ。これ以上、君が危険な道に進むのは見過ごせない」


クロードが杖を振り上げる。氷の矢が放たれた。


「くっ!」


マリアが防御魔法を展開するが、威力が強すぎる。氷の矢は防壁を砕き、マリアの肩を掠めた。


「まだ分からないのかい?古代生物の力は人知を超えている。研究者という名の傲慢な魔術師たちが、次々と破滅していったんだ」


「でも、理解しようとしなければ...!」


マリアが反論する。その時、私は不思議な感覚に襲われた。


(この感覚...!)


遺跡の中心から、強い引力のようなものを感じる。古代植物の記憶が、私を呼んでいる。


「マリア、中心部へ!」


「え?」


「信じて!」


マリアは一瞬躊躇したが、すぐに決断する。


「分かったわ!」


彼女は壁に向かって爆発の魔法を放ち、そこから横道に逃げ込んだ。


「追え!」


クロードの怒声が響く。


迷路のような通路を駆け抜けていく。どんどん遺跡の奥へと進んでいくにつれ、古代植物の気配は強くなっていった。


そして——


「ここ...!」


巨大な円形の広間に辿り着いた。その中心には、巨大な化石が鎮座している。


「あれが...」


マリアの声が震える。化石は、見たこともない古代植物のものだ。その周りには、すでに数人の魔術師が集まっていた。


「動くな!」


後ろからクロードの声。包囲された。


「これで終わりだ」


クロードが近づいてくる。その時、化石が微かに輝きを放った。


(これは...?)


私は感じ取っていた。この化石には、とてつもない力が眠っている。でも、それを取り込むにはリスクが...。


「マリア、怪我は?」


「大丈夫...でも」


彼女の肩から血が滴る。このままでは...。


「決めた」


私は決断する。


「え?」


「信じて」


私は化石に意識を向けた。途端、強大な力が流れ込んでくる。


「あ...熱い!」


体が焼けるような感覚。でも、耐えなきゃ。


「あの植物が...光いてる!?」


誰かが叫ぶ。私の体が淡い光を放ち始めていた。


「やめろ!危険だ!」


クロードが止めようとする。だが、遅い。


「はああぁぁっ!」


私は新たな力を解き放った。無数の光る胞子が広間中に広がっていく。


「な、何だ!?」


魔術師たちが混乱する。光る胞子は次々と爆発を起こし、広間が揺れ始めた。


「マリア、逃げて!」


「でも...!」


「大丈夫、必ず追いつく!」


マリアは一瞬躊躇したが、頷いて走り出した。


「くそっ、撤退だ!」


クロードも部下たちに撤退を命じる。


遺跡が崩れ始める中、私は新しい力と格闘していた。体が熱い。でも、これを制御しなければ。


「はぁ...はぁ...」


何とか持ちこたえ、私も脱出に成功した。


遺跡の外で待っていたマリアが、駆け寄ってくる。


「ユヅキ!大丈夫?」


「なんとか...でも、この力はまだ制御しきれてない」


「一緒に研究しましょう。今度は、慎重に」


マリアの言葉に、私は安堵の息をつく。


背後では、遺跡が静かに崩れ落ちていく。だが、これは終わりではない。


「ねぇ、マリア。西の方に、もっと大きな遺跡があるって聞いたんだけど...」


「ええ、そうみたい。でも、その前に...」


彼女は言葉を切る。


「その前に?」


「あなたの力のこと、もっと調べましょう。今度は、焦らずにね」


マリアの表情は、以前より柔らかくなっていた。


新たな冒険が、私たちを待っている——。










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