第3話 起源

 現地に到着すると現場作業員に紛れて何人もの人物が既に洞窟の入口で待機していた。


 その『石碑』とは大きな洞窟の内部に書かれた壁画のように存在し、作業員は周辺の石や岩、土砂の撤去と共に洞窟内部の補強をしている。その現場監督の指示待ちなのだが、桐嶋たちと同じく周辺の調査もしておきたいといった所だろう。二人は早めに到着したつもりだったが、後続者側のようだった。


 その早朝組の内の一人が、榊原教授の元へとやってきた。


「お久しぶりです、教授。お元気そうですね」


 背が低く眼鏡の男性が、親し気に話しかけてきた。


「ええっと・・・・・・」


 榊原は笑顔で怪訝な顔をする。


「木下です。比較言語学の。以前、講義の際にお会いしました」


「・・・ああ、どうも」

 そう言って出された右手に握手をするが、榊原は何一つ思い出してはいないだろうと、桐嶋は見抜いていた。


「しかし教授、まだ神代文字なんてのを研究されていらっしゃるのですか?元々の言語地理学の権威としてのお方が、どうしてまた」


 鼻で笑うこの木下という男に、桐嶋はムカつきを覚える。


「あ、すいません、現に多くの古墳から出土した刀剣や鏡に刻まれた文字や、古事記にも記載があるように、大陸から漢字の伝来以前から文字の存在は認知されているでしょう?その研究をするのに、何かおかしな点がありますか?」


 桐嶋はこのいけ好かない小男に食って掛かるかのように話の間に入った。


「全ては漢字から派生したものです。ひらがなもカタカナも。それは教科書でも習ったでしょう?それをわざわざ別の説を今更、呈したって何の意味があるのでしょう?時間の無駄ですよ」


「あら、随分と研究者らしからぬ思考ですね。そんな一次情報だけを鵜呑みにされている人が同じ学者を名乗るなんて、よっぽど日々の日常が忙しいんでしょうね」


「・・・あの、教授、こちらの女性は??」


「ああ、私の助手・・・助教の桐嶋君です。今回は彼女に任せようと思ってるんで一緒に来てもらったのです」


 木下は見下すような目で桐嶋を眺める。


「そうですか・・・あまり、皆様の邪魔をなさらなおように、お願いしますね。では・・・・・・」


 木下は後ろに手を組みながら、去って行った。


「・・・先生、あいつなんですか?すっごくムカつくんですけど。嫌いだわぁ」


「ふふふ・・・まぁ、気にしなさんな。色んな考え方がありますからねぇ」


「だって、実際には殆どの方が言ってますよ?不自然だと誰もが感じながらも言わないだけで。特に。『イ』が人偏から、『ウ』がウ冠からだというのはまだ分かりますよ?『ア』が阿のこざとへん。でも『へ』が部のおおざとへんって、じゃあ『ア』と同じ形だしそれがどう見ればおおざとが『へ』になるんです?『ワ』なんて和のくちへん??それは『ロ』で良くないっすか??もうめちゃくちゃなんですからぁ」


「まぁ、色々事情があるんですよ」


「ちょっと先生ー、しっかりして下さいよぉ。私は龍体文字がひらがなの起源じゃないかって証明したくて、ずっと研究してきてるんですからぁ。先生の『阿比留草文字』論文に感銘して、ここまで来たんですからねぇ。言っちゃってくださいよぉ漢字の”パーツの起源”が神代文字だって可能性のが高いってことを・・・だって、漢字が様々な文字の組み合わせっていうのなら、その組み合わせ元だった字の起源の軌跡や痕跡があるはずなんですよね?それが歴史的に消したのかなんなのかわかんないけど現にその証拠も無く、そして神代文字は多くの所説があるって時点でおかしいんですから」

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