☦『十の災い』✡  カクヨムコン10短編【 8,198 文字】 全7話

白銀比(シルヴァ・レイシオン)

第1話 神代文字

「午後のニュースです」

「昨今、カメムシやトコジラミ、別名ナンキンムシが全国的に大量発生していましたが、次はブユ、別名『ブヨ』が全国的に大量繁殖が見られます」

「専門家いわく、円安によるインバウンドによって多くの人の流入がみられ経済を発展させておりますが、それにより様々な害虫といった小さな生物も共に流入してきているというリスクを提唱されています」

「『ブユ』とはハエ目カ亜目ブユ科に属していて、蚊と同じくメスのみが他生物である哺乳類などから血を吸う特徴があり、蚊と同じく媒介する『感染症』や『アレルギー』による発症の懸念を示唆しました」

「くれぐれもお出かけの際には、虫よけ対策をお忘れなく」


「次のニュースです」

「〇〇県から〇〇県にかけ広範囲に『雹』が降りそそぎ、何人かの死亡や怪我を負ったという方が相次ぎました」

「車の運転中だった〇〇さんは、昼間にも関わらず厚い雲の積乱雲が前方に見えたと思った途端、まるで土砂崩れにでもあったかと思ったほどの衝撃と共にフロントガラスが割れ、軽傷を負ったようです」

「〇〇さんは直ぐに車を停めて『雹』が止むのを待ち、事故にまでは至りませんでした」






 桐嶋きりしま 愛希葉あきはは大学で発表論文の制作に勤しんでいた。言語学の助教として博士号の取得を目指していて、神代かみよ文字の一つである『龍体文字』について研究している。


「・・・桐嶋さん、ちょっと」


 桐嶋は榊原さかきばら教授に突然、呼び出された。


「いきなりですまないが、私の変わりに〇〇県へと行ってくれないか?大分と古い『石碑』が出土したようで、そこになんと何らかの形象文字が書かれているみたいなんだ」


「ほ、本当ですか?!勿論、行きます!・・・え、教授は行かなくていいのですか?」


「ああ、私はもう”そんな意欲”は無いからね。君に託すよ。しっかりと、頼むよ」


「あ、ありがとうございます!」


 榊原教授は微笑ましく、教え子である桐嶋を見つめて肩に手を置く。





 二人はいくつもの電車を乗り継ぎながら、出土された石碑の場所まで向かった。

 本件を桐嶋に托すとは言っても、助教である桐嶋には権限が無い為に榊原教授は、最初だけは同席し連絡を貰った文化庁の官僚との話を付けなければならない為に、お互いの顔を立てる意味で同席することにした。


「なぜ、国の文化庁からの依頼なんですかね?」


 桐嶋は車窓の外に流れる木々や山々を眺めながら、榊原に質問を世間話のように繰り広げていく。


「まぁ、過去にもよくある事だ。結果次第では国の重要文化財に指定するかどうかも視野に入れなければならない。勿論、”あちら”にとって都合がいい結果、ならね」


「・・・先生はその”方向性ではない権威側”ですよね。なんでも都合よく解釈してくれる研究者なんてごまんといて、そっちではなくこっちに依頼するってことが、なんだか怪しいんですけど・・・・・・」


「行ってみれば、分かるんじゃないかな?」


 桐嶋はなんだか釈然とはしなかったが、いつも通りの穏やかで楽天的な榊原の雰囲気に、いつも通り飲まれていった。

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