第11話

愛されてる。その愛が重くても、大切にされてることがよく分かるからいい。壱翔の手が頬に触れ、涙を拭う。

上手く言えないかもしれない、それでも勘違いされてるよりはマシだ。


私が好きなのは壱翔だけだよ。その言葉と共に今日起きた出来事を説明した。最初は堅い表情だった壱翔も少しばかり柔らかさが増す。困ったように笑って、頭を撫でられた。




「…ごめんな。俺のせいか」



「そうじゃない!!」



「だけど堂々と言えることでもないだろ?別に強要するつもりはねー」




私だってできることなら堂々としてたい。自慢の彼氏なんだよ。かっこいいでしょ?って。なのに現実は正反対。私が弱いばかりに、周りの目を気にしすぎてしまうばかりに、言えない言葉がたくさんある。どこか申し訳なさそうな壱翔に、こんな顔をさせるくらいなら言わなければよかったと後悔した。




「俺はこの仕事に誇りがある」



「…」



「誰にも文句は言わせねぇ」




次は私が黙り込んだ。分かっていたことだ。壱翔が誇りを持っていることも、いつだって堂々としてることも。私だけが弱くて困らせてばかり。

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