第23話 試験準備
ご飯を食べ終えて部屋に戻った俺。母さんはあの後、犬についてネットで色々調べていたが、俺は放っておいた。今はこっちの怪異について早く対処をしなければならないからだ。
話を聞こうと親父に電話をかけてみたものの応答はない。任務だろうか。
「……電話に出んわ」
一瞬にして部屋の気温がマイナスにまで達した気がする。誰もいなくてよかった。
そんなオヤジギャグは置いといて、次は何をすればいい?この感じだと、多分涼介の奴らにも同じように手に名前が書いてあるだろう。その証拠に、さっきから俺の携帯電話に三人から死ぬほど電話がかかってきている。でも、今出たところで何も話せるような話はない。とりあえず電話に出るべきか?う〜ん、どうするのが正解なのか……
そんなとき、ふと案を思いついた。
そうだ。こういう時は、海斗に聞けばいいのか。
忘れていたが、今は怪異について親父以外にも頼れる人ができたのだった。昨日特訓が終わって、その帰り際に聞いたのだが、今日の仕事はないらしい。適当に時間を潰すと言っていたから、電話に出てもらえるかも。
俺はすぐに携帯電話を開き、「今、時間平気?」とメールを送る。すると、そこまで間を置かずに既読がつき、「平気だよ?何かあった?」と帰ってきた。怪異に絡まれていると伝えると、詳しく電話で聞いてくれることに。
「実は、かくかくしかじかでして」
電話口で俺は手短に状況を伝える。
「なるほどね。早く連絡してきてくれてよかったよ」
海斗は紅城にそう答えた。
「ほう」
「その怪異なんだけど、倒すのが
「え???」
衝撃の事実に驚く俺。倒すことが不可能な怪異とかが存在するのか……。そんな奴らにどう対抗すればいいのか分からず、焦りが生じた。
「まぁ、会場の何処かに参加者の名前が書いてあるから、それを消せば一応脱出はできるんだけどね。でも────」
その後の海斗の言葉に紅城はより一層気を引き締めることを決めた。
***
「────て感じかな。それと、そっちの助けに行きたいんだけど、残念なことに今僕その近くにいなくてね……」
残念そうな声でそう言ってくる海斗、助けがほしかったが今回は頼れなさそうだ。
「……俺だけで、か」
夢鬼ごっこについて教えてもらったが三人を守れる自信がなくなってきた。俺が怪異に巻き込んだ以上、絶対に守ってみせるのだが、安心はできない。
「いや、それは大丈夫。僕の知り合いが近くにいるから、その人に君を助けるようにお願いしておく。でも、あんまり期待しないほうがいいよ。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとつまずいてね。まぁ、そういうわけだから後は君とその人に任せるよ」
海斗もまだ陰陽師になってから日が浅い紅城一人で、一般人三人を守れとは言わない。その場に行けない自分の代わりを用意していた。
「海斗。会ったときに改めて感謝するけど、今回もありがとう。あとその方によろしく伝えといて」
「任せといて。じゃあ頑張ってね」
海斗の言葉の後、電話を切ると伝えた紅城が終了ボタンを押しかけたその時、海斗が思い出したかのように言った。
「あ、いい忘れてたけど、その人女性の酒好────」
海斗の言葉の途中で電話は切れた。
「切っちゃった。それと最後に何か不穏な単語が聞こえた気が……」
気になった俺はかけ直してみたが、繋がらない。
その人、大丈夫かな?いや、海斗が用意してくれた人だし、きっと大丈夫だろう。
多分、きっと……うん……
***
「切れちゃった……」
海斗は紅城との電話が途切れてしまい、紅城の神社近くでポツリと呟いた。
まぁ、必要なことは伝えたし、これでいいか。
海斗はそう思いながら紅城からかかってきている電話を無視して携帯電話をしまった後、隣にいる缶ビールを開けて飲み始めた黒いスーツに身を包んでいる女を苦い目で見た。海斗よりも身長は高く、短い髪の毛にガタイの良い女性。彼女は缶ビール片手に空を眺めながら、気分良さげに鼻歌を歌っている。
(な〜んで、試験前に酒のんじゃうのかな。この人)
そんな彼女に対し、海斗はただ呆れている。だが、彼女の実力を認めている。なぜならば、彼女は海斗と同じく十二天将の内の一人であり、そして海斗と同じく天恵の
「それで、
「ん〜〜?もちろん」
彼女はそう答えた。そして、ポケットからタバコに似た何かを片手で取り出し、それを咥えた。
「それと、ここ禁煙ですよ?」
今度は駅のホームでタバコを吸い始めたのかと呆れた海斗はそれを注意したが、女はこう返した。
「禁煙パイポだから問題ないよ。ほら、火ついてないでしょ?」
女が取り出したのは、タバコではなかった。喫煙者がタバコを吸う事を止めるために吸う代替品。駅で吸うのは非常識な気もするが、女には関係なかった。
(さて、ガソリンも入ったことだし、お手並み拝見と行きますか)
女は心の中でそう呟いたのだった。
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