第2話 転生
私が目覚めると、そこは光につつまれていなかった。
おかしいなあ。
私、死んだんだよね?
なら、目の前に広がる暗い魔界のような風景は何だろうか?
「おい、小娘」
地の底を
私は、恐ろしくて思わず振り返った。
そこには、一本の赤い禍々しい角の生えた紫色の髪と瞳の青年が立っていた。
神話に出てくる鬼のような見た目だ。
「お前、あいつに復讐したいか?」
考えるまでもないことを聞かれた。
「もちろんだ」
私は、私をだましたあいつを絶対に許さない。
絶対に私と同じ痛みと苦しみと憎しみをいだかせてやる。
「そうか。ならば、おもしろい。お前に一度だけチャンスをやろう」
鬼は微笑んでそう言った。
「チャンス?」
「そうだ。我はこれからお前に新たな生をこの記憶を持ったままおくらせてやる。そのかわり、我を楽しませろ。我が退屈だと思ったら即座にお前を消す」
なんて身勝手な、と思った。
でも、ここでこいつの言ったことを拒否してもこの鬼には私は勝てないだろう。
視たところこの鬼はかなり強そうだ。
「わかった」
楽しませればいいんだろう。
とびぬけて強い者は、退屈が嫌いで、退屈しのぎになるものが好きだとどこかに書いてあった気がする。
いいじゃないか。
とびきりの復讐劇を見せてやる。
「ふははっ。楽しみにしているぞ」
鬼は笑ってそう言って私の額をこつん、とたたいた。
次の瞬間、私の意識はまたもや途絶えた。
――――
ってことが、今までのなりゆき、だよね?
でも、前世と全く同じ姿で転生させるのか。どうしよう。
私は、目の前のガラスのコップにうつった自分を見つめながらそう思った。
私は今、茶色の長い髪に赤い瞳の少女の見た目だ。そして、長い髪は三つ編みに編んでいた。
まあ、前世より少し歳は若返っているみたいだけど。
「それで、今日はどうだった? 何かわからないことはあった?」
目の前のメイドのような恰好をした白髪の少女が私にそう聞いてきた。
「いいえ」
私はとっさにそう答えた。
この体の記憶によると、私は城のメイドならしい。そして、目の前にいるのは私の先輩、ならしい。
ルーナに会いやすいこの体に転生させてくれたあの鬼に感謝か。
まあ、気まぐれかもしれないけど。
「じゃあ、明日からも頑張ろうね!」
その少女――名前はメアリというらしい、は微笑んでそう言った。
「はい。メアリ先輩」
私は微笑んでそう言った。
もちろん作り笑顔だが、それに気づかれないように頑張った。
「きゃあ! わたし、初めて先輩ってよばれたわあ! うれしいっ!」
どうやらメアリ先輩は、明るい性格のようだ。
ルーナに会うときとかに利用しやすそうだ。
記憶によるとメアリはその年にしてメイド長なようだから。まあ、今日一日見ていた感じからすると、若いから年下からも年上からも馬鹿にされやすいようにみえた。私は、
「これからもよろしくおねがいします」
と飛び切りの笑顔で言った。
「ええ! よろしくね」
にこにこと無邪気な笑顔でメアリ先輩は言った。
「ところで、女王様のメイドになるにはどうしたらいいか、わかる?」
私がそう聞くと、メアリの表情はこわばった。
「どうしてそんなことを聞くの?」
メアリは私のことを怪しむような目で見た。
まずい、流石にこのセリフは怪しまれたか。
私はあわてて、
「だって、女王様はすごくお美しくて、素晴らしい御方でしょう?」
と思ってもいないことをぺらぺらと言ってみた。
「あ、そうなのね」
少し引いたような笑みを浮かべてメアリ先輩はそう言った。そして、
「で、女王様のメイドになる方法だったっけ? それなら、確かちょうど明日にある面接で上手くいけばなれるはずよ。面接では確かメイドとしての能力や性格などをみられるらしいから今から受けるつもりならかなり頑張らないと難しいかも」
と、言ってくれた。
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、女王様のメイドになりたいんだったら本当に頑張ってね! 応援してるわ」
メアリ先輩は微笑んでそう言ってくれた。
「はい。がんばります」
私はにっこりと笑ってそう言って、
「では、また会いましょう」
と言ってその場から去っていった。
多分メイドとしての能力は今日一日メイドとして働いてみたが、大丈夫そうだった。まあ、前世では毎日
前世のことを思い出して、
絶対に許してなるものか。
あいつは私がこの手で苦しめて痛めつけてやる。
私はそんなことを考えながら今世での家に帰った。
家に帰って私は早速引き出しの中から短刀を取り出し、壁に向かって素早く投げた。壁に短刀がしっかりと刺さる。
なんだか、前世と同じような感覚である。
もともとこの体の持ち主が体を鍛えていたのかもしれない。
それか、あの鬼が元々身体能力の高い体に転生させてくれたのかもしれないけど。まあどちらにしても、鍛える手間がはぶけたのは良かった。
とりあえず眠ろうと思い、私は三つ編みをほどいて着替え、布団に眠った。
木でできた寝台だったので非常に硬かった。
思わず、前世の幼少期のころのことを思い出そうになったが、私はその記憶を頭から振り払った。そして、何事もなかったかのように無理やり眠ろうと目をつむった。そして、気が付いたら私は眠りにおちていた。
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