第一章

第1話 炎

 私は、ボロボロの自分の服を見てどうしてこうなったんだろう、と考えた。

 でも、すぐに肌がかゆくて髪をかきむしりたくなる。

 一昨日から何も食べていないせいか、頭がまわらない。

 何かを考えようとすると、疲れて考えることすらできない。

 けど、私は信じている。

 きっと大丈夫だ。

「十字架にかけろ」

 兵がそう言って私を十字架にかけた。

 そして、私の足元に火をつけようとする。

 それを、

「ちょっと待ちなさいな」

と言ってルーナは制止した。

 やっぱり嘘だよね。

 私のことをルーナが十字架にかけて死刑にするなんて、何かの間違いに決まっている。信じてたよ。そう思い、私は期待のまなざしでルーナを見た。

「ねえ、ネフィリス。今どんな気持ち?」

 ルーナはにっこりとわらって私にそう問いかけた。

 しかし、私が答える間もなく、

「ほんっとうに、いい気味だわぁ。早く苦しむ姿が見たい。」

 ルーナはうっとりとした表情でそう言った。

 私の思考は停止した。

「――どういうこと?」

「あら。ネフィリスったら、まだ気が付いていないの? 私、あんたのことずっと大嫌いだったの。あ、でも、私を女王にしてくれたことだけは感謝してあげる。それじゃあ、さよーならー! ふふっ」

 そ、んな。

 ばかな、ことが?

 ありえない。どうして?

「そうそう! その表情が見たかったのよぉ。今まで、ありがとー!もう、二度と生まれてこないでねぇ。あんたは、私に利用されるために生まれてきたのよぉ。だから今のあんたはもう用済み。さよーなら!」

 私はふるえていた。

 きっと、これはなにかの間違いだ。

 だって、ルーナが、あのルーナがそんなことを言うわけがない。

 ルーナはきっと誰かに騙されたんだよ。それで仕方がなくこう言っているんだ。

 そうだ! きっと何かの間違い!

 そう思い、私はルーナを見たがルーナは私をニタニタと見下した目で見るだけで何も言わなかった。

 兵は、私の足元に火を放った。

 私は、何も抵抗できずにその場で燃やされた。

 痛かった。

 血肉が裂けて、皮膚がやけた。恐ろしく痛かった。今までくらったどんな傷よりもずっと、ずっと痛かった。まだ、胸まで炎は来ていないはずなのに、胸がすごく痛かった。今までに、感じたことのない痛みだった。それが、炎によるものなのか私にはわからなかった。

 ただ痛くて、ルーナに裏切られたと気づいてしまった時には、胸の奥から光が消えて真っ暗闇くらやみに一人で放り込まれたかのような感じがした。

 そして、炎が腹まで来た時にはもう私は私じゃなかったかもしれない。

 ルーナあいつは知らない。

 仲間に裏切られた苦しみを。

 血肉を裂かれて炎で焼かれる痛みを。

 騙された愚かな過去の自分への憎しみを。

 その感情が全て混ざった時、何を人は感じるのかを。

 私は、決して許さない。

 そして、今度こそ絶対に騙されない。

 そう思った瞬間、私の意識は途絶えた。

 最後に見えたのは、どこか上品で狂気にゆがんだ笑みをうかべているルーナあいつの表情だった。

 しかし、その頬を一滴の涙が伝っていることには誰も気が付かなかった。

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