価値観は定期的なアップデートを

ちびまるフォイ

価値観の古い人間には価値がないという価値観

「であるからして、当時の文化ではこうでした。

 みんな。ここはテストに出るよ」


「先生、なんで当時はそんなおかしなことを?」


「まあ、当時の人達の価値観は今と異なるから……」


チャイムが鳴って職員室に戻ると、校長に呼び出された。


「校長、どうしたんですか」


「君……価値観アップデートしてる?」


「え」


「まさか。アップデートしてないで教べんを!?」


「ちょ! 待ってください! 全然話が読めないです!」


「警察から連絡があったんだ。君は教員免許があっても

 価値観バージョンはまだ1.0.0なんだと。

 今のバージョンは1.2,0。君の価値観は古いんだよ」


「価値観が古くても授業はできるでしょう?」


「そういう思考がもう古い価値観なんだよ!

 君、いいから早く価値観のバージョンをあげなさい!

 警察が来る前に!!」


しかしすでに遅い。この国の警察は優秀だった。


「貴様、まだ価値観をアップデートしていないのか」


「ひい!」


「おい、パトカーに連れて行け。

 こいつは多様性やSDGsなダイバーシティの価値観がない奴だ」


手錠をかけられてパトカーで運ばれ、その日のうちに投獄された。


「価値観をアップデートするまで獄中生活だ。覚悟しておけ」


「僕がなにをしたっていうんですか!」


「古い価値観のまま授業をしていただろう!?

 この思想犯罪者め!!」


「ただの歴史の授業ですけど!?」


「古い価値観を引きずったままの授業なんて、

 危険な洗脳教育でしかないだろ!!」


看守は一歩も半歩もゆずっちゃくれなかった。

自分の牢屋には先客がひとりいた。


「やあ……あんたもアップデートされずに投獄されたのかい」


「あなたも……価値観が古いから投獄されたんです?」


「ああそうさ……。私の中じゃいまだに女性は専業主婦がデフォだ」


「古っ……。縄文時代からタイムスリップされたんです?」


「ちがうよ。でも……昔には昔の価値観で良いものがあるんだ。

 最新化こそが正しいものと崇拝しているけどね……」


「そうなんですかね……」


自分よりも古いバージョンの人を見ると、

さっさとアップデートすればいいのにとは思う。

古い価値観には多くの場合、現代に合ってないものがある。

自分もアップデートを要求されている側ではある。


「私は怖い。価値観をアップデートすることで自分が変わるんじゃないかと」


「変わりはすると思いますけど……。人は変わっていくものでしょう?」


「アップデートしたことで急に風呂キャン界隈になって、

 Y2Kをアサイーボウルで食べるおきゃんでナウい人になったら……」


「価値観が古い状態での最新のイメージがひどいな」


「しかし、それも今日までさ。さすがにもう疲れた。

 私は価値観をアップデートすることにしたよ」


「え、これだけ文句を言っていたのに?」


「背に腹はかえられないよ。それについ最近Ver2.0.0が出たからね。

 アップデートするだけで牢屋から解放されるんだ。やすいものだよ」


男は牢屋の格子の前に近づく。


「看守さん。私はアップデートを決めました」


「ああそうか。じゃあこれを」


看守は価値観アップデートパッチが入ったUSBメモリを差し出す。

男はUSBメモリの端子を鼻に突っ込むと価値観のインストールが始まる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


インストールが終わると、男はすっかり顔つきも変わっていた。


「多様性、めっちゃ大事!!」


「変化が露骨すぎる……」


鼻からUSBメモリを引き抜くと、ティッシュで拭いてから差し出す。


「さあ、次はお前だ。早くアップデートしろ」


「いや俺は……。こう世間に触れていれば自然とアップデートされません?」


「そんなことはない。早くしろ!」


「うわわ! せめて未使用のものを!!」


そのときだった。

つい今しがたアップデートした男の頭から煙が出始める。


「おいどうした!?」


「価値観エラー。価値観エラー。この脳内で価値観は共存できません」


看守はすぐに男を牢屋から引きずり出して看護室へと運んだ。

その後にわかったが、価値観パッチVer.2.0.0には重大なバグがあった。


Ver.1.0.0以前の価値観を持っている人がアップデートすると、

その脳内で価値観の競合が起きてしまうというもの。


Ver.2.0.0の配布は緊急停止されたが、

それでもすでにアップデートした人とそうでない人での価値観のズレが起きた。


「おい! 大統領が価値観アップデート前なんておかしい!!」

「Ver.2.0.0の価値観じゃないのに偉そうにするな!」


アップデート済みの人たちは、更新前の人間を劣等民族として扱うようになる。

Ver.2.0.0は配布されていないのでアップデートもできない。


「これでいいんだよ。優れた人間だけがアップデート。

 愚かなカスどもは古い価値観で地べた這いずり回ればいいのさ」


アップデートしただけのくせにエリートだと思いこむような人も出てくる始末。

古い価値観バージョンの人たちも黙っているわけもなく。


「アップデートしただけで偉そうにするな!」

「そうだ! お前のアップデートが正しい保証はない!」


「なんだとこの旧人類め!!」


「この排他主義者め!!」


価値観バージョンの差で生まれる争いはそこかしこで起きた。

古いバージョンの人が、新しいバージョンの人を襲ったり。

新しいバージョンの人が、古いバージョンの人を襲ったりする。


最新バージョンが配信されるときには、半数以上の人命が失われかけたときだった。


「みなさんお待たせしました。価値観の最新化ができます。

 今後は価値観の違いによる争いは生まれません!」


そうして人類に最新バージョンが適用された。

牢屋に閉じ込められたままの自分を除いて。


「はあ。世間じゃもう最新バージョンか」


いまだにアップデートを拒んでいたので、価値観はVer.1.0.0のまま。


授業の黒板をノートに書き写すのがデフォだと思っている。

スマホで黒板の写真とったり、それをAIに読み込ませて字面にするとか考えられない。


いい加減諦めて価値観をアップデートしようかと思ったとき。

看守がやってきて扉をあけた。


「出ろ」


「え。アップデートしてないのに、いいんですか?」


「最新のバージョンにアップデートするために外へ出るんだよ。

 最新バージョンは鼻USBじゃなくて注射になったんだ」


「あそういうこと」


手錠をかけられてパトカーに乗せられる。

なんとなく窓からひさしぶりのシャバを見ていた。


「なんか……ずいぶん街や人は変わりましたね」


「今は価値観Ver.3.0.0だからな」


「なにが違うんです?」


「3.0.0になってからは、最新が自動的にインストールされるようになった。

 もうバージョンの差で争うこともない」


「いやでも……めっちゃあっちで喧嘩してません?」


歩道のほうを指差す。

そこでは集団がひとりをフルボッコしていた。


「ああ、あれは当然だ」


「当然?」


「青い肌の人間は生きてる価値がないんだ」


当たり前のように話した。



「これから自分もこの価値観になるんですね……」



パトカーは価値観の接種会場へとまっすぐ向かった。

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