風のリズム、鐘のリズム、薬莢のリズム

鈴ノ木 鈴ノ子

かぜのりずむ、かねのりずむ、やっきょうのりずむ

 風のリズム、鐘のリズム、薬莢のリズム


 英雄の眠る地は、朝からの小雨が夕方になっても降り続いている。

 墓地によく似合う人の涙のように、天の嘆きを地面へと投げかける。

 癒しの涙か、許しの涙か、残された者の悲しみか。

 墓地を護る衛兵が雨の中で小銃操演を奏でゆく。

 汚れなき軍服を湿らせ、制帽の鍔から雫を落とし、着剣された小銃を濡らして。

 それは戦地に旅立つ若者のようである。

 それは熟練の兵士のようである。

 それは戦場を駆ける英雄のようである。

 衛兵の一糸乱れぬ動きに観客達が、驚嘆の声を上げて、歓声を上げて、拍手喝采を送っている。

 真逆の光景に思わず息が漏れゆく。

 驚愕の声を堪え、苦痛の声を堪え、剣電弾雨を駆け抜けた遠い日々に思いを馳せて。

 あの日の事は覚えている、あの日の事は忘れはしない、あの日の事は刻まれた。

 多くの血を流しながら自らの命にしっかりと刻まれた。

 あの日よりいく年月が流れたのだろう、最前列だった墓石は中程までとなった。

 新しき戦友が今日もまた挨拶をしては去って行く。

 弔いの風が心地よく吹いている。

 弔いの鐘が心地よく鳴っている 。

 弔いの銃声が心地よく響いている。

 排出された薬莢が地面へと落ちては、あの日と同じ音を奏でた。

 人が生きている限り、悪意で満ちることがある。

 人が生きている限り、善意で満ちることもある。

 人が生きている限り、狭間は常に現れる。

 悪意には悪意を、善意には善意を、狭間には狭間を。

 最善と最悪の狭間で戦った。

 文字の争いが、言い争いになり、ペンで殴り合って、弾で撃ち合う。

 何処の摂理も変わる事はない。

 火種は常に戦場を知らぬ者から焚き付けられ、それを消すのもまた、戦場を知らぬ者たちだ。

 戦場は確かに獰猛で、残酷で、悍ましいものだ、否定はしない。

 だが、戦争に持ち込むのは誰なのか、立ち止まって考えてみてほしい。

 集団の心理は、個人の心理が集まって形成されるものだ。

 それを忘れてはならない。

 どんな主義主張もそれを内に秘めている、平和の内に秘めているのだ。

 国同士が、地域同士が、家族同士が、秘めているのだ。

 争わない世界を作りたいと真に願うなら消えてしまうがいい。

 誰にも苛立ちを与えず、誰にも戸惑いを与えず、誰からも恨みを与えず。

 小さな火種を消し去ることができる。

 それが無理なら、受け入れろ、苛立ちも、戸惑いも、恨みも、受け入れて、手を離すことなく、離されることなく、対話を続けるしかない。

 最後の最後、どうしようもなくなった時には将兵が立つ。

 それが備えだ。そう、最後の最後の砦なのだ。

 言葉の重みを再確認してほしい。

 安易なパレードで言葉を語るな、安易なイベントで言葉を語るな、安易な言葉を語るな。

 理論に基づいた思考を持ち、倫理に基づいた思考を持ち、正しい判断を下すことだ。

 私は関係ないでは済まされない。

 その考えこそが、戦場へ将兵を追いやる第一歩なのだから。

 悪きものを作り出すのではなく、良きものを作り出すにはどうしたらよいか?

 考えてほしい。

 真剣に考えてほしい。

 そうしなければならないことに気がついてほしい。

 風のリズム、鐘のリズム、薬莢のリズムへと続かせぬように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風のリズム、鐘のリズム、薬莢のリズム 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

作家にギフトを贈る

ありがとうございます!!!!!(滝涙)
カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ