ガチャガチャ、ポン!
製本業者
ハルカと駄菓子屋
ハルカの住む町の片隅に、古びた駄菓子屋があった。
駄菓子以外にも雑貨やおもちゃが並んでいるから、雑貨屋と呼ぶほうが正しいのかもしれない。
しかし、木製の引き戸や懐かしい棚の配置、そして漂う甘い匂いが、どうしても「駄菓子屋」という言葉を連想させた。
店主のおじいさんは、昭和を感じさせるその店にぽつんと座り、無口な仏頂面で新聞や雑紙を読んでいることが多い。
怖いわけではないのだが、子どもたちはなんとなく近寄りがたかった。
ハルカが幼稚園や小学校低学年だった頃、確かにこのおじいさんはよく笑顔を見せてくれていた気がする。
けれど、最近はずっと無表情だ。
たまに来店するハルカの顔を見ても、じろりと一瞥をくれるだけで、また新聞に視線を戻してしまう。
そんな駄菓子屋の入口付近に、古びたガチャガチャの機械があった。
透明なケースの中には、小さな羽の形をしたキーホルダーがいくつも入っている。
どこかの誰かが作った不思議な噂があった――「この羽を手にした者は、願いを一つだけ叶えられる」
学校でその話を聞いたハルカは、居ても立ってもいられず、駄菓子屋に駆け込んだ。
「1回10円」
貼られた紙も色褪せ、どこか哀愁を感じさせる。
ハルカはポケットから10円玉を取り出し、迷いなく投入。ガチャガチャを回すと、透明なカプセルがカラカラと音を立てて出てきた。
「これだ!」と期待を込めてカプセルを開けると、中には小さな白い羽のキーホルダーが。
「これ、普通の羽じゃん!
願い事なんて叶うのかなぁ」
がっかりしながら、駄菓子屋の棚を眺めた。
すると、きらきら光るビー玉や昭和風のチョコレートやキャンディーが目に留まる。
「どうせだから、何か買って帰ろう!」
ハルカはポケットに残った小銭を握りしめ、数種類のお菓子や小さな玩具を選んだ。
「これとこれください!」と元気よく言うと、おじいさんは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに無言でそれらを袋に入れた。
袋を受け取ったハルカは、軽く会釈をして駄菓子屋を出た。
店の前で袋の中を確認しながら歩いていると、手にした羽が淡く光り出した。そして、どこからともなく声が聞こえる。
「汝に命令を与える。この羽に願いを託すならば、他人の願いを10叶えよ」
「ええっ!? 他人の願い?」
戸惑いながらも、ハルカは帰り道で町の人たちに「何かお願いごとある?」と聞いて回ることにした。
最初に出会ったのは公園で泣いている男の子だった。
「お姉ちゃん、僕の風船取ってきてよ!」
見上げた木の枝に赤い風船が引っかかっている。
最初ジャンプするが届かないので、ハルカはよじ登り、風船を取って渡してあげた。
一緒に渡してあげた棒状のスナック菓子を男の子が笑顔で食べていると、羽がまた光った。
「他人の願いを1つ叶えた。次の願いを探せ」
次にハルカが出会ったのは、スーパーから帰ってきたおばさんだった。
両手に大きな買い物袋を抱え、途中で何度も足を止めては重そうに肩を回している。
「おばさん、荷物持ちますよ!」
突然声をかけられたおばさんは驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「まあ、ありがとう! 優しい子だねえ」
ハルカは買い物袋を受け取ると、「どこまでですか?」とおばさんに尋ねた。
しばらく一緒に歩きながら、軽いおしゃべりを楽しむ。
「こんな重たいの、1人で持つの大変でしょ?」
「そうなのよ。今日は特売日だったから、ついつい買いすぎちゃってねぇ」
おばさんの家に到着し、荷物を渡すと、彼女はハルカにお礼としてチョコを1つくれた。
「ありがとうね、助かったわ!」
「あ、駄菓子屋さんのですか?」
「たまに買うのよね、飴ちゃんとか」
おばさんの明るい笑顔を見て、羽が再び光った。
その次にハルカは、スーパーの駐車場で泣いている小さな女の子を見つけた。
母親とはぐれて迷子になってしまったらしい。女の子は泣きながらも、じっとハルカを見上げている。
「大丈夫だよ! ほら、これ食べる?」
ハルカは駄菓子屋で買ったラムネ味のキャンディを袋から取り出して手渡した。
女の子は驚いた顔をしながら、ひと粒口に入れて、泣き止んだ。
「あま~ぃ」
もうひと粒口に入れた女の子は笑顔になった。
「お名前は? 一緒にお母さん探そう!」
笑顔で語りかけるハルカに安心したのか、女の子は小さな声で名前を教えてくれた。
その後、無事にお母さんを見つけ出すと、女の子は嬉しそうに手を振った。
羽が再び光り出し、ハルカは「よし!」と心の中でガッツポーズを取った。
その後、庭の水やりを手伝ったり、落とし物を届けたり、後縁の気味拾いを手伝ったりして、10人目の願いを叶えた瞬間、羽が眩い光を放ち、ふわりと宙に浮いた。
「汝は使命を果たした。我が力を授けよう。1つだけ、汝の願いを叶えることができる」
ハルカは目を閉じて願った。
「おじいさんの駄菓子屋が、またみんなに愛されますように!」
翌日、駄菓子屋の前には子どもたちが列を作っていた。
羽の力なのか、ハルカの奔走が話題を呼んだのか、それは誰にもわからない。ただ、店主のおじいさんは笑顔で駄菓子を手渡していた。
たまたま駄菓子屋に訪れた近所の老主婦が、おじいさんに声をかけた。
「今日は、また賑やかになりましたねえ」
おじいさんは、照れくさそうに目元をこすりながら言った。
「いやぁ、ありがたいことだよ。
それに、つい昨日ね、息子から電話があってな。孫を連れて今度戻ってくるってさ」
「お盆やお正月でも無いのに?
あら、ひょっとして?」
言葉に温かみが込められていて、仏頂面だったおじいさんの顔に、どこか昔の優しさが戻っていた。
ハルカはそのことを知らない。
ただ、おじいさんが笑顔になったことで、自分の願いが叶ったのだと信じた。
「また来るね、おじいちゃん!」
そんな子どもたちの元気な声が響く中、ハルカは小さくガッツポーズを決めた。
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