第2話 角の席の奥の席は罠の席

「初めまして。〇チネット クリエィティブのディレクター ミツキです」

 ペコッと頭を下げる姿も爽やかだ。できる人って感じがする。ほぉっとひなたは見惚れてしまった。


「ミツキさん、今日は時間いただきありがとうございます。コレ友人のヒナタです」

 そう言われてヒナタは見惚れて固まっていた事に気付き慌てて立ち上がって

「初めまして。ヒナタです」

 頭を下げる。


「あ、いいよ。気楽にして、まぁ座って。座って」

 ミツキさんはニコッと爽やかにウェイターさんにコーヒーを頼んで着席した。


「イブキ、調子はどう?」

「お陰様でいいですね。今月10万稼げました」

 

 ヒナタはイブキの10万という額に驚いてイブキを見る。


「いいね!ヒナタさんはバイトか何かしているの?」

「いえ、今はインターンを兼ねていろいろな老人ホームを手伝っています」


「へぇ、ヒナタさんはヘルパーさんになるの?」

「はい、いつか介護福祉士になるのが夢ですね」


「いいね。他には何か夢とかないの?」

「そうですね、今つきあっている人と結婚したいって思ってます」


「おぉ、もう結婚まで考えているんだ」

「はい、なので二人で結婚資金を貯めようって話をしてます」


 ヒナタは照れ臭そうに話した。


「若いのに結婚をちゃんと考えていてえらいね!でも今ってインフレで物価がどんどん上がっているけどその上昇率に銀行の金利はほとんど上がってない。これって円の価値がどんどん下がっているっていう事なんだよね。10年前に1万円で買えたものが今では買えなくなっている…それどころか税金も上がって給料が上がっても実質手取りは減っている…って知ってる?」

「はい」


 返事もしながらヒナタは少し落胆した。


「内閣府の調査で2020年に貯蓄率が年11.8%だったのが2023年には年1.5%まで落ちてしまっているんだよ。今貯金をするっていうのがとても難しくなっていってるよね…」

「そうなんですね…」


「でもヒナタさんは早くその結婚資金貯めたいよね?」

「はい、そうですね」


「私も以前は二人と同じようにお金が無かった。だからこの仕事を始めたんだけど、やっぱり最初は『怪しい』って思ったんだ。今『怪しい』って思ってるでしょ?」

「は、はぁ」


「でもじゃぁ何で私がこの仕事を続けていると思ってる?」

「えぇ?何でですかねぇ?お金が入ってくるから?」


「うん、それもある。イブキさんも始めたんだけど、今、私達がしている仕事っていうのは時間に縛られずに気軽にできる在宅ワークなんだ。今は副業とかも推奨している会社が多いでしょ?もう一つの仕事だけじゃお金は貯まらないからね。イブキさんもちゃんと学業はやっているでしょ?つまり自分の生活を邪魔される事なくお金が入ってくるからなんだよね。」

「は、はぁ…」

 突然の仕事の話でとまどうヒナタ。


「本当に時間は取られないんだよ。ね?イブキさん」

「はい!ヒナタ!本当にそうなんだよ、この仕事始めて本当に助かったし、頑張ればミツキさんみたいにディレクターまでいったらもっと儲かるんだよ。他にもたくさんやっている人がいるんだよ。やってみたいと思わない?」


 すごい勢いで話されて少し引くヒナタ。


「は、はぁ…ど、どんな仕事なんですか?」

「ネットを使って羽毛布団をオススメする仕事だよ

 売れたらその売り上げの10%が入ってくるんだよ

 っていうかイブキさんはさっきも話した通りもう10万円稼いだんだよね?」


 自信満々に答えるミツキさんに

「はい!」

 とイブキが自信満々に満面の笑顔で返事をする。


「でもやっぱりまずは自分がその羽毛布団を使ってみて良さを体験してみないと他人ひとにオススメできないよね?だからまずは羽毛布団を1枚自分で購入してもらわなきゃなんだ。今日!決めてくれたら本当だったら100万円が50万になるの!最初から半分もお得になるんだよ!ヒナタさんの人生を変えよう!」


「え?マジで?ヒナタ!それすごいお得じゃん!そしたら羽毛布団10枚売れたらもう元が取れちゃうどころか売り上げもあるって事だよね!それはアリだよ!」

「50万円…」


 おもむろにミツキさんは着信があったらしく携帯を取って会話を始めた。手でごめんってして会話を続けるべく外へ出て行った。


「ヒナタ!すごいお得だって!今日だけなんだよ?10枚なんてすぐ売れるよ!それにもしひなたが誰かを紹介したら、その人の売り上げに対してもマージンが入るんだよ?何もしなくてもお金が入ってくるんだよ?一緒にやろうよ!頑張ろうよ!」

「え、えぇ?」


「な、何が不安?」

「いやぁ、まずは50万円っていう初期投資がね…それに100万もする羽毛布団なんて買ってくれる人がいるかなぁ」


 電話を終えたミツキさんが席に戻ってきた。

「ごめんごめん。仕事の電話だった。で、イブキさんどうだった?」

「えっと何か、初期費用の高さと羽毛布団を買ってくれるかなぁって不安なんだって…」

 それを聞いたミツキさんはヒナタの方を優しい目をして見つめた。


「そっかぁ不安かぁ…でも!大丈夫!コレ見て。他の人の成績なんだけど…」

 鞄から表を出してきた。それには羽毛布団が売上表が載っていた。


「この羽毛布団は本当にいい品でね…みんなあっと言う間に売り上げを上げて50万どころか100万とか売上ちゃっているでしょ?結婚資金なんてあっと言う間に貯まっちゃうよ?迷う事なんてないよ!この話はで申し込めるのはだから一緒に頑張ろうよ」

 自信満々の笑顔でヒナタを見据えるミツキ。


「…………」

 考えこむヒナタ…





「やりませんよ」

 ミツキの背後の客が立ち上がって答えた。



アオイだ。

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