緑陰の記憶を胸に《物語り》と少女は戦火を駆ける - その旅びとは謎が多い・第三部/第四部
綾邦 司
第三部 黄道往還
第零話 - 再びの旅路 -
本作は長編「精霊に愛された少女は《物語り》と共に果てなき森を歩む」の続編になりますが、前編を知らなくても楽しめるようにしております。
本作をお読みいただき、より登場人物たちの関係性や背景を知りたいと希望いただけましたら、是非前作「精霊に愛された少女は《物語り》と共に果てなき森を歩む」にも目を向けて頂ければと思います。
https://kakuyomu.jp/works/16818093074826293729
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大森林。
数年、十数年を掛けても踏破することも叶わず、東西に至ってはどこまで広がっているかすらも分からぬ広大な森林地帯。
その森の中を、少女は旅してきた。
奴隷の身でありながら火の精霊の加護を宿した少女は、加護を嫉視した者どもによって
加護を受けた故の災難であったが、それでもなお精霊の加護は彼女にとって祝福だった。
その地で、ひとりの青年と出会えた故に。
《物語り》を名乗るその青年は大森林の村々を巡り、知恵と知識を交換しているのだという。
彼と共に、少女は旅した。
奴隷の頃には、そして元居た国では知り得なかった森で生きる為の知識、森で生きる人々の想いを学んだ。
そして青年が《物語り》になった切っ掛け、その根源も知った。
少女と同じ、火の精霊の加護を受けた女性。彼女の跡を追うように、青年は《物語り》になったのだと。
話を聞き、己の中に生じた複雑な感情を、その時の少女は理解できなかった。
ふたりの旅に、もうひとりと一羽が加わった。
出会いは最悪だったが、商人には青年にないもの、人としての狡さや弱さ、哀しさがあった。
いつしか大切な仲間となった商人の為、三人は北の果てを目指した。
商人もまた、かつて精霊の加護を受けていた。そして弱さ故にその加護と精霊を北の氷原へと捨てた。
そして商人は精霊との再会を果たした。精霊への詫びに全てを捧げても良いとすら思い詰めていた商人だったが、精霊はそんなことを望んでいなかった。
精霊が望んだのは、ただ商人の幸せだった。
商人は再び精霊と共に在ることを誓った。それは商人の旅の終わりでもあった。
再びふたりきりになった少女、シュトと青年、タイカ。
次の目的地は、タイカの師なる者の住処だった。
風が暖かくなった。
木々の隙間から吹き抜ける風。その風を頬に感じ、シュトは思った。
北の蛮族。否、冬の血族の集落を出て十日ほどが経った。
元来た道ではない。元の道は南東から北上してきたが、今度はほぼ真南へ進んでいる。
日の傾き具合。そして夜の星々。シュトはタイカから、太陽や星の位置から向かっている方角を知る術を学んでいる。
南に進むにつれ、雪が少なくなり霜も浅くなった。木々の種類も変わってきている。
ふたりだけの旅に戻った。
集落に残った商人、ヤムト。その相棒である毛長駝鳥の薄墨姫も集落に居着いた。
生まれてからずっと旅の中であった薄墨姫だ。定住は肌に合わないのではないかとヤムトは危惧したが、薄墨姫からヤムトから離れなかった。
「まあ、落ち着いたら交易を試そうと思ってやすし」
満更でもない風にヤムトが言った。何だかんだと言って、ヤムトも薄墨姫に愛着があるのだ。隣にいるだろう氷の精霊が嫉妬しないか、などとは心配はしない。
冗談でそんな風に装うこともあるかもしれないが、本気にはならないだろう。
精霊と、その加護を受けた者である《
「この先に、タイカの先生が住んでいるの?」
「まだまだ先だけどね。《鉄の道》にぶつかるまでは、南へ進むよ」
《鉄の道》
枯れた河のような、細長い荒地。大森林内を北西から南東に走り、北の端は誰も見たことがないほど長大なのだそうだ。
「《鉄の道》の南端に先生は住んでいる」
そう説明を受けた。
「そういえば。どうして《鉄の道》というの?」
シュトがふと思いつき、尋ねた。
タイカは黙った。秘密にしたいと言うより、どう説明していいか言いあぐねているように見えた。
「鉄のような、鉄に似た廃墟のような、そんな塊がそこらじゅうに散らばっているんだ」
これも精確ではない気がするけど。と、タイカは眉をひそめながら言った。自分の説明に納得がいかないようだった。
少し、可笑しい。シュトは微笑んだ。
最近、自分でも頬が柔らかくなった気がする。
「早く、見てみたいな」
「そうだね」
短い会話。だけど十分に感じた。
また、頬を風がなぶった。
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